風景を切り取る
横長の窓が、
水面を強く意識させる。

この家を、「閉じたことで開放感が生まれた」と谷尻さんは言います。「開くことがそのまま開放感につながるわけではないんです」と吉田さん。
「窓が大きくても閉鎖的になることもあります。ここは大きなひとつの空間でできた家。階段を下りると霧が晴れるように風景が立ち現れます。池を横長の窓で切り取り、抑制した体験で驚きを与えています。この操作で建物が意識から消え、水面を強く感じられるんです」
「この家は建築の力を改めて僕たちに教えてくれました。極端に言えば屋根だけで建物はできてしまうんです」
水面の輝きや葉のそよぎを拾い、室内で天井の色は次々に変わります。「風景にも奥行きがあることがわかりました」とCさんは言います。
「風景がひとつではなく、何層もあるんです。カーテンをつけていませんが、夏に暑くなることもありません」
Cさんは自ら提案したように、当初提案された4段のプランを自ら3段に減らすように依頼しました。
「線を減らしていくような感じでしょうか。僕たちも生活を整理してシンプルにし、暮らしを本質的に絞っていった。ベストのレイアウトを検証したんです」

上:傾斜した屋根がひな壇状の各フロアを貫き、シンプルで開放的な空間が広がります。窓も多くが固定されているので、その存在をあまり感じることがありません。
中:玄関から続くのは書斎とウォークインクローゼット。たっぷりの収納力がうらやましいかぎり。ゴールドのドアノブなど、ディテールへのこだわりも質感を高めます。
下:階段から各フロアを見上げます。最下段がリビング・ダイニング、中段が子ども室、上段には書斎や水まわり、収納が収まります。大きなワンルームのような住まいです。