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H.モーザー スイス マッドウォッチ Ref.8327-1400
前代未聞! チーズ製ケースと 牛革ベルトで“100%スイスメイド”を実現した「H.モーザー」のユニークピース。
「時計のケースがね、チーズでできているらしい」
「まさか。だったら飢えた時には食べられるわけ?」
2017年1月16日から20日までスイス・ジュネーブで国際時計展示会「SIHH」が開催されましたが、あちこちでこんな会話が交わされたのではないでしょうか。近年は時計のケース素材が多様化しており、セラミックはもちろん鍛造カーボンといった先端素材もめずらしくありませんが、食品のチーズとはまさに前代未聞。紛れもなく世界初でしょう。これを開発したH.モーザーのブースで実物を紹介されるまで、頭の中で「?」がいくつも浮かびました。
このチーズ・メイドの時計、その名も「スイス マッドウォッチ」は、冗談やシャレではないアイロニカルな社会性を秘めています。それは後述するとして、概略を先に紹介すると、カーボンナノチューブのケース製造にも使用されるハイテク複合素材ITR²にチーズを約50%配合。このため、ケースはブラウンがかったミルク色で、地紋も浮かんでいます。使われているチーズは、スイスとフランスの国境沿いに位置するジュラ山脈周辺の高地でつくられる伝統的なヴァシュラン・モン・ドール(Vacherin Mont d’Or)。コンクールで金賞を授与された銘品だそうです。これだけで時計のケースを造形しているわけではないので、もちろん堅くて食べられません。ただし、ストラップも白と黒のぶち(斑)模様と毛肌が印象的な牛革製。美味しそうに感じられる組み合わせではあります。
ダイヤルはスイスの国旗をイメージして、深紅をベースに純白の針とバーインデックス。特に深紅のベースカラーは、独特のグラデーションが美しく鮮やか。これはH.モーザーのアイコンともいえる「フュメダイヤル」で、大変に手間のかかる技法が施されています。ムーブメントは手巻きで、約3日間のロングパワーリザーブ。
気になる価格は108万1291スイスフラン。スイスが建国された1291年8月1日に由来するそうです。世界で1本のユニークピースとはいえ、日本円で約1億2300万円と超高価。ただし、次のような注釈が付いています。
「売上金は現在困難な経済情勢とアジアへのアウトソーシングで苦しんでいる独立系のスイス時計製造サプライヤーを支援する基金の創設のために全額使用されます」
このあたりから、どうやら深い意味が隠されていると分かりますよね。
実は2017年1月1日から「SWISS MADE」と表示できる基準が強化されました。これまでは「製造コストの50%がスイス国内で支払われること」でしたが、それが60%に引き上げられたのです。しかしながら、H.モーザーはすでに95%以上を達成しており、この基準でSWISS MADEとして扱われることに懸念をもちました。そこで、今後はあえてSWISS MADEと表記しないことを決定。それを効果的にアピールすることを目的として、スイス特産のチーズをケースにした時計を開発したそうです。ストラップにしても、クロコダイルやアリゲーターでは輸入品になってしまうので、あえて牛の革にしているのです。
かくてSWISS MADEとはどこにも表記されていませんが、ムーブメントからベルトに至るまで100%すべてがスイスメイド。ちなみにH.モーザーは、機械式時計の調速機構の要となるヒゲゼンマイを自社生産。他社にも毎年約10万本を供給しているそうです。こうした実績を背景として、SWISS MADEの基準に対する同社の考え方をアイロニカルに表現した時計といえるでしょう。
このユニークピースはあまりにも高価格ですが、ケースをチーズ製でなく18Kホワイトゴールドにした同型の「ベンチャー スイス マッド Ref.2327-0208」も発表されています。こちらは世界限定50本で225万円(税抜き予価)。やはり「フュメダイヤル」の鮮やかで繊細な深紅のカラーが魅力です。
裏側はシースルーバック。手巻きの自社製ムーブメントを搭載。パワーリザーブインジケーター付き。プレートにはモーザーストライプという独特の縞模様が施されている。
問い合わせ先/イースト・ジャパン TEL:03-3833-9602
今回のコメント
サンドロ・レジネッリ
オートランスCEO及び共同創業者
1995年からウォッチメイキングの世界で活躍。グッチタイムピース、タグ・ホイヤー、モーリス・ラクロアで執行責任者として経営実務を遂行してきた。2015年12月1日から現職。