東京車日記いっそこのままクルマれたい!
第55回 Rolls-Royce Wraith Black Badge / ロールス・ロイス レイス・ブラック・バッジ
新年は漆黒のエクスタシー!? ロールス・ロイスのレイス・ブラック・バッジで陰翳礼讃2018!
ロールス・ロイスは特別なブランドです。ハンドルを握ると、よくこれだけのブランドがブランドの骨格を失わずに2018年まで生き残ってきたものだ、とため息が出る。1972年に破産してからというもの、親会社を変えながらBMWグループに落ち着いたのは、自動車ファンにとって幸運だったと言える。それもこれも創業者のひとりであるフレデリック・ヘンリー・ロイスが天才で、生粋のエンジニアだったからこそ。親会社が違っていたらロールス・ロイスの世界観をまっとうできずに、社名を新しくして「新世代ロールス」とか言いながら、軽量化したボディにV8ツインターボで妥協していたかも(笑)、とか思っちゃうわけ。まず、このロールス・ロイスの世界観を決定している6.6LのV12エンジンが素晴らしい。
それと感じる重厚な巨体が、魔法をかけられたように静かに前進する。その瞬間、ランタンに灯がともるように豪奢な馬車は息づく。馬蹄形のシートやカーボンファイバーにアクリル塗料を何回も吹き付けたという艶めかしい素材、アルミニウムのドアノブやスイッチが、車内のわずかな光を捉えて命を吹き込まれたみたいに輝きだす。ダークネスをテーマにしたブラック・バッジだけど、もともとロールス・ロイスとは暗闇ありきのブランド。車名のゴーストやファントムはもちろん、このレイスだってスコットランド語で「幽霊」を指す。フレデリック・ヘンリー・ロイス率いる職人たちがつくり込んだ、なめらかなシフト感や堅牢なボディ、そして力強く静謐な6気筒エンジンの車体は自動車黎明の時代にあって、とても高価なものだった。
ロールス・ロイスを手に入れた王族や貴族といった上流階級の紳士淑女たちは、その静粛性や乗り心地のよさを「この世のものではないようだ」と感じていた。20世紀初頭のヨーロッパは電灯が普及してきていたとはいえ、まだまだ夜の闇が濃くて、谷崎潤一郎が執筆した随筆『陰翳礼讃』の時代だった。当時の上流階級の馬車に取って代わったのがロールス・ロイスだったわけだけど、そこにはイギリスをはじめヨーロッパ各地の民間伝承にある「亡霊の馬車」のイメージが深く関わっていたのではないか、と思うんだ。たとえば社交界でまことしやかに語られる、主人が非業の死を遂げた名家の馬車が、首なしの御者に操られて、静かにものすごい速度で駆け抜けていった噂とかね。そういう闇が深い時代に「この世のものではない」存在に対する畏敬の念は、ただならないものがあったと推察するわけさ。
文字通り、漆黒のレイス・ブラック・バッジに乗れば理解しやすいんだけど、それはもともとロールス・ロイスがもっていたブランドの根幹をなす屋台骨なんだと言いたい。行灯を連ねた夜祭りの山車や深夜の国道を走るデコトラは、光を放ってよりいっそう濃い闇を纏うんだけど、ロールス・ロイスは自ら闇に同化し、周囲の光によってより深い闇としてその姿を浮かび上がらせる。走りも威厳に満ち満ちていて、乗客をスピードを出さずして異次元へと連れ出すことができる。そもそも駐車場に停めている姿だけで、そこだけ空間がおかしなことになっているような(笑)、圧倒的なオーラがあるんだけど、その理由のひとつに中世の闇とともにあったブランド100年の歴史があるわけだ。個人的にもとにかくロールス・ロイスと名の付くものなら、なんでも欲しいって気になったんだけど(笑)、まずは2018年の初夢で、甘い運命に溺れてみたいと切に願うね。
●エンジン:6.6ℓ V型12気筒ターボ
●出力:632PS
●トルク:870Nm
●トランスミッション:8速オートマチック
●車両価格:¥39,990,000円(税込)~
問い合わせ先/ロールス・ロイス・モーター・カーズ 東京
TEL:03-6809-5450
www.rolls-roycemotorcars-japan.com