誕生 15 周年を迎えた、唯我独尊のクロノグラフ
岩崎 寛(STASH)・写真photographs by Hiroshi Iwasaki
並木浩一・文
text by Koichi Namiki
ルイ・ヴィトン「タンブール」は、何度も我々を楽しませてきた腕時計である。誰もが認める世界的ブランドによる初の腕時計コレクションは、デビューから15年目。今年登場したのは独創的なフォルムを活かしつつ、月の弧のような線を得た新たな造形だ。「タンブール ムーン クロノグラフ」は、その新シリーズでGMTモデルと人気を二分するだろう、魅惑の新作である。
もともと〝太鼓〞を意味する名前の通り、「タンブール」は胴部にボリュームがあるユニークなケースをもった。しかしその後継である「タンブール ムーン」はまったく逆のアプローチへ向かう。内側に向かってマイナスの円弧を描くしなりを、ケースサイドに採り入れた。真横から見ると上弦と下弦の月が背中合わせに対を成して見えるのが、「ムーン」の形象だ。結果として時計にまっすぐ正対すると、文字盤がケース径44㎜サイズいっぱいに使われたダイナミズムが小気味いい。3次元的なスペースパターンの改変が、平面の美にも影響を与えているのだ。
ストラップに繋がるラグは、真円の文字盤を侵すことなく均整を採る。実はこの周囲で、大改革が行われた。今後「タンブール」のストラップは、道具を一切使うことなく一瞬で付け替えが可能になるのである。チタンのような特性をもつ炭素繊維強化樹脂をジョイント部分に採用したシステムは、特許を取得した。しかも最新コレクションだけでなく、従来モデルにも共通という誠実な対応も行われている。
「タンブール」のオーナーは皆、レザーストラップは言うに及ばずダミエ柄やモノグラムなど、ルイ・ヴィトンの豊富なデザイン資産を、自由に選べる。すでにメンズ用は30、レディース用は32を超える色と素材のバリエーションが用意された。「タンブール」は自身のほかにライバルがなく、ルイ・ヴィトン以外に選択肢が不要な、独自の体系を築いてみせるのである。
タンブール ムーン クロノグラフ