美しき造形を描く、60年の軌跡を語る一本。
岩崎 寛(STASH)・写真photographs by Hiroshi Iwasaki
並木浩一・文
text by Koichi Namiki
「ベンチュラ」は、今年で誕生60周年を迎えた、腕時計界不滅の金字塔だ。世界で初めて電池式を採用した、エレクトリック・ウォッチ。その後の腕時計の進化に決定的な影響をもたらすと同時に、つくり手であるハミルトンの声価を歴史に記した名作である。その60周年記念モデルが、クールなスタイルで登場した。
SSにゴールドのPVDを纏わせたケース、周波数をデザイン化したような文字盤中央の〝エレクトリック・マーク〞。三角形・左右非対称という永遠にアバンギャルドな造形に乗せて、ミッドセンチュリー期アメリカ的な魅力を想起させる。現在はスイスに拠点を持つハミルトンのルーツは、ペンシルバニア。そもそも「ベンチュラ」は、キャデラックのデザインで名を馳せたインダストリアル・デザイナーの雄、リチャード・アービブの最高傑作でもある。
時代を代表する腕時計は、エルヴィス・プレスリーの愛用品となる。主演映画「ブルー・ハワイ」(1961年)にも登場した。エルヴィス演じる主人公チャドの着けた「ベンチュラ」は、恋人の祖母の誕生会シーンで、はっきりと目視できる。当時の映画館のパナビジョンの大画面でも、液晶テレビの解像度でも、エキセントリックなフォルムは決して間違えようがない。
この映画でエルヴィスは御曹司ながら親の会社の跡目を拒み、ハワイアンとフランスの血を引く恋人を愛し、アメ車ならぬMGAロードスターでワイキキを走る。世界中でヒットした劇中歌は「好きにならずにいられない」。どこまでも格好がいいライフスタイルに「ベンチュラ」は、ぴったりと嵌まり込んだ。
現在ハミルトンには、ムーブメントの選択肢を含めた「ベンチュラ」のバリエーションがあるが、記念モデルはクオーツ版。機械式ファンダメンタリズムからは外れるが、初代モデルが電池式だった「ベンチュラ」にとっては、むしろオリジナリティが高いのである。
ベンチュラ 60周年記念モデル