ドイツの職人魂を凝縮した、日本限定の手巻き。
岩崎 寛(STASH)・写真 photographs by Hiroshi Iwasaki並木浩一・文 text by Koichi Namiki
モリッツ・グロスマンはここ数年、急速に知名度と評価を上げているドイツの高級時計ブランドである。19世紀の伝説的な時計師の名跡を再興し、旗揚げしたのが2008年。すべてを手仕上げするジャーマン・クラフツマンシップの権化のような時計は、10年かからずに世界の時計マニアに認められた。そのブランドが日本だけに向けた、20本だけの特別な限定モデルが「ベヌー・ピュアジャパンリミテッド」である。
自社製手仕上げの手巻きムーブメントを搭載した最高級ドレスウォッチを、あえてスチールでつくってみせたのが本来の「ピュア・シリーズ」。それを限定版ではさらに、隙なくつくり込んでいく。文字盤のマテリアルは真鍮ではなく、ゴールドモデルと同じソリッドシルバー製に変更した。しかも、モリッツ・グロスマンでは初となるブラック・ダイヤルなのである。ブランドの完璧主義を示すめずらしい〝自社製針〞も、ゴールドモデルで用いている特別な仕上げを施した。ただでさえ独創的な長いリーフ形の窪みにハイセラム樹脂を充填し、磨き上げる。シースルーバックから覗くムーブメントにも同様に、手を加えている。
実はモリッツ・グロスマンが一年に生産できるのは、わずか200本ほどだという。凝りに凝った手仕上げがそれ以上を不可能にしているわけだが、その一割が日本に振り向けられた。世界初のブティックを東京、それも小石川の桜の名所である播磨坂につくったほどの通なブランドは、日本人の審美眼を知り抜いている。そのブランドが本拠地とするのは、ドイツ・バロックの麗都ドレスデン近郊のグラスヒュッテだ。パリより一割ほど小さい面積に、約7000人の人口を抱えた山間の街。第2次大戦前から知られたドイツ時計の聖地は、戦後に東独に編入され、ドイツ統一後に再び声価が蘇った。奇跡の街から日本にだけやってくる時計は、それ自身が希少で貴重な一つの奇跡に見える。
べヌ―・ピュア ジャパンリミテッド