伝統の技を文字盤に表現した、完璧なフォルム
岩崎 寛(STASH)・写真photographs by Hiroshi Iwasaki
並木浩一・文
text by Koichi Namiki
ティファニーが、とうとう自社製ムーブメントを搭載した。ここ数年、ウォッチの世界で目覚ましいリリースを続けていた世界的ジュエラーから、その確かな歴史をデザインに残した「ティファニー スクエア」が誕生。本店のあるニューヨークだけでなく、ワールドワイドなニュースに、時計界も色めき立つ。
それというのもティファニーという名の存在感は、腕時計の歴史を通じても極めて大きい。19世紀の前半から本格的に時計に取り組み、1870年代にはジュネーブに工場を構え、ムーブメントからの時計づくりを行っていた。実はティファニーは新顔の自社製ムーブメントではなく、その座に回帰してきたのである。しかもジュネーブを離れるにあたって、ニューヨーク本店にアトラスの像を掲げるラグジュアリーの巨人が工場を売却した相手は、ほかならぬパテック フィリップ社だ。
そんなスケールの大きな歴史を背負っている「ティファニー スクエア」の完成度は、一分の隙も許されない。ましてやこの品はティファニーの設立180周年を記念して製造され、世界180本限定で発売される、とびきりのスペシャルピースである。図抜けたその期待度に対し、ティファニーは鮮やかに応えている。
1920年代に製造したコンパクトな正方形ケースをアーカイブとしながら、現代の職人が最高の技術を駆使した、美しい手巻き腕時計。スクエアな時計のために角形の自社製ムーブメントを製作する贅沢に、コート・ド・ジュネーブとペルラージュ技法がケースバックで大胆な模様を描く仕上げを重ねた。まるで太陽光線のようなソレイユ仕上げの美しいホワイト文字盤には、ティファニー独特のゴールド プードレで仕上げたアラビア数字を躍らせた。アメリカン・アール・デコの爛熟を待つ20年代、ジャズ・エイジの華やかな光彩がこの腕時計を通して蘇る。それは現代に魔法にかける、魅惑の腕時計に見える。
ティファニー スクエア