東京車日記いっそこのままクルマれたい!
第56回 Porsche 911 GT3 / ポルシェ 911 GT3
その羽は天使か悪魔か。ハードコアな新型ポルシェ 911 GT3と“キャン・ユー・セレブレイト?”
ポルシェ 911シリーズの上位モデルとして、911 ターボと双璧をなすのが4ℓ自然吸気エンジンの911 GT3です。トレードマークはこのリアウイング。豊富な911のラインアップにあって、とりわけスポーツ性能を際立たせた911だよね。姿勢が固定されるフルバケットシート(オプション装備)による戦闘態勢でハンドルに向き合わされ、イグニッションキーを回すと、ブワンと五臓六腑にしみわたる低い排気音。きっちり軽量化されたボディは、アイドリングからしてガラガラと音が鳴っているし、アクセルを踏むとクルマはガウガウ言いながら前へ前へと進もうとする。「これはヤバい!」と思った瞬間、敬愛するラッパーのグールーが耳元でささやいたよね。「ハーコー(ハードコア)」って(笑)。
911 GT3はハードコアの代名詞である911のラインアップにあって、リアル・ハードコア。夜の首都高に乗り入れれば、「待ちかねた」とばかりに911 GT3は躍動する。キックダウン(アクセルの踏み込みによるギアチェンジ)すると5000回転あたりから一気に、他を圧倒するエキゾーストノートとともに鋭い加速。こちらの運転を先読みし、神の見えざる手で車体がホールドされているかのようにコーナーを駆け抜ける。エンジン音とロードノイズが車内を満たし、脳神経が完全に車体と接続しているような感覚に、「やだ。ヤバーい」と乙女に豹変しそうになる自分を抑えながら(笑)、よりタイトな運転感覚を味わいたくてシフトを自動のPDK(ポルシェのデュアルクラッチ式オートマチックトランスミッション)スポーツモードに入れる。
その瞬間、身体がより拘束され「ふんむ」と鼻息一発、筋肉が増強されたみたいに走りがより力強く生まれ変わる。「きみのシフト操作はルーズだったね」とあからさまにクルマから言われている気がするけど、それはそれ(笑)。普通に首都高を走るのに、ほとんどアクセルだけで操作できるPDKのスポーツモードは、走りにとことん純粋なサーキット仕様なんだ。だからこそ快適に走りたいのなら、自らパドルシフトで調整すればいいわけだけど、「それでいいのか」って疑問が消えないところに911 GT3の核心があると思う。
マニュアルモデルもあって、自分のフィジカルを駆使して走れるそっちも乗りたいけど、それはパドルシフトの走りと一緒で、このポルシェ史上最強の水平対向エンジンのポテンシャルを真に引き出しているわけじゃない。ハードコアにはハードコアの乗り方があって、快適性を追い払って突き詰められた自動車工学の原理に忠実でありたいなら、走りはやっぱりPDKのスポーツモードでしょう! その追求において自由と美学を感じられるのなら911 GT3はうってつけの1台だし、これこそポルシェらしい1台なんだとも思った。外見も現行991型のエレガントな顔つきに危険なにおいを漂わせていて完璧なバランスだし、段階を追ってチューニングされた高回転のエンジン音は、ポルシェの美学と営為を余すところなく表現している。実際、とことんしびれるよね。
あとドライバーのフィジカル的なところで言うと、911 GT3を乗るのはスポーツをすることと同義で、そこそこ乗れば翌日、しっかりと疲労が残る(笑)。筋トレみたいなものですぐ慣れると思うけど、メンタル的にも「本質とはなにか」という貴重な気づきを残してくれる点を、特に強調しておきたいんだ。モノづくりの職人はもちろん批評家やスポーツ選手、経営者、学者といった、本質と常に向き合う職業の方には必ず大切なパートナーになる! 実際、ストイックなクリエイターにポルシェファンが多いのはそういうことだと思っているし、911 GT3はとりわけメンター的な存在になりうるはず。「ちょっとカウンセリング受けてくる」と秘書に言いながら、911 GT3で首都高を走っちゃう経営者がいてもいいと思うしね(笑)。
●エンジン:4ℓ水平対向
●出力:500PS
●トルク:460Nm
●トランスミッション:8速PDK
●車両価格:¥21,150,000(税込)~
問い合わせ先/ポルシェ カスタマーケアセンター
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