パテック フィリップから新開発の手巻きムーブメントを搭載した「カラトラバ」と、革新的な永久カレンダーが登場
1932年に発表されたパテック フィリップの「カラトラバ」は、現代に至る丸型腕時計の原点といわれる。バウハウス運動が提唱した「機能がフォルムを決定する」に基づくミニマルなスタイルは、多彩なバリエーションに発展。世界最高峰の時計づくりを貫くパテック フィリップの基幹コレクションを構成してきた。その中でも、ベゼルに「クルー・ド・パリ」またはホブネイルパターンと呼ばれる特徴的なギョーシェ装飾を施したシリーズがリニューアル。新開発の手巻きムーブメントも搭載した「6119」モデルとしてデビューした。
新作は1985年から20年以上にわたって製作された伝説的な「3919」をベースとしているが、ケース径は現行の手巻きスモールセコンドモデルを2㎜上回る39㎜。腕もとで適度な存在感をアピールする絶妙なサイズだ。このケースを支えるラグも直線ではなく、ベルト接合部に向けて滑らかにカーブ。堅牢な安定感と快適な装着感を実現している。アプライド(植字)による立体的なバーインデックス(18Kゴールド)は、エッジをシャープにファセットカット。伝統的なドフィーヌ針も2面ではなく3面で造形しており、前述のインデックスと合わせて、わずかな光も逃さず反射するため、視認性が高い。バランス的にも非の打ち所がない完成度だが、このスタイルに際立った個性を加えているのが、ベゼルに刻まれた極小のピラミッド群なのである。その幅もケースサイズの拡大に合わせて微妙に広くされた他、サイドの美観を意識して傾斜もつけられている。スイスでもトップに位置するブランドだけに、現代的なニーズに注意深くデリケートに応えたリニューアルといえるだろう。
その一方で、自動巻き全盛の時代性にあえて逆行するように、手巻きムーブメントを新開発して搭載したことも特筆できる。従来に比べて直径を約9㎜も拡大しながら厚さ2.55㎜を維持した「キャリバー 30-255 PS」は、ゼンマイを収めた2個の香箱を備えており、約65時間(約3日間)のロングパワー。ただし、この香箱は直列ではなく並列に配置することでゼンマイのトルク(出力)を増強。それによって精度の安定性が向上するだけでなく、歩度調整も容易になるという。ムーブメントをケースに合わせて大型化したことで、スモールセコンドが中央寄りでなくなり、サイズも大きくなった。そのための新開発とも解釈できそうだ。
いずれにしても、自動巻きも便利だが、手巻きは機械式腕時計特有の伝統的な機構であり、持つ人が指でリューズを回さなければ針の動きは止まってしまう。いわば腕時計との直接的な対話とも言い換えられる。この時に愛着や慈しみを実感できるのは、丹念にていねいに仕上げられた高級機械式腕時計だけがもたらす特権であり、「カラトラバ」はそれに値する傑作といえるだろう。
永久カレンダーモデルの新作も登場
パテック フィリップではカレンダーモデルも得意としてきたが、この分野でも革新的な新作が登場した。「5236P」は曜日、日付、月を12時位置の細長い窓に段差なしの一列でインライン表示。トリプルカレンダーを各所に分けた一般的なモデルに比べて、視線を動かす必要がないため、すこぶる見やすい。同社が製作した懐中時計で同じ表示を持つモデルがあるが、これを腕時計という小さな容積で実現するために特別な技術を開発。3件の特許を出願中という。6時位置にはムーンフェイズも備えた永久カレンダーであり、毎月末はもちろん、閏年の2月末も自動で判別して日付送りされる。4時位置の小窓は閏年のインジケーター。8時位置は昼夜表示。外観は左右完全対称で端正にデザインされているが、背後にはパテック フィリップが集積してきたハイレベルな技術が隠されているのである。
問い合わせ先/パテック フィリップ ジャパン・インフォメーションセンター TEL:03-3255-8109