#06
グラフィカルなパターンをインテリアに取り入れたくなったとき、カーテンやラグも選択肢のひとつですが、大判のテキスタイルをそのままもっていると、より気軽でフレキシブルに使えます。たとえば1枚の布をベッドやソファのカバーに、パーティションにかけて間仕切りとして、またテーブルクロスにと、さまざまな用途が思い浮かびます。
北欧と日本のクラフトやプロダクトを扱うショップ「t-b-d」では現在、1960~80年代を中心にしたフィンランドのヴィンテージテキスタイルのみを集めた企画展「Impression of Textile Design —テキスタイルのある風景—」を開催中です。マイヤ・イソラ、ヴォッコ・ヌルメスニエミや石本藤雄など、著名なデザイナーによるアイテムや、すでに生産中止となった希少なアイテムまで、クオリティの高いテキスタイルがセレクトされています。
買い付けで北欧への出張も多いスタッフの戎愛子さんは、フィンランドのヴィンテージテキスタイルはしっかりとしたコットンの幅広の布地で、2メートルほどの使いやすいサイズが多いといいます。また自然をモチーフとしているものが多いので、日本のインテリアにも取り入れやすいと説明してくれました。
「北欧ではヴィンテージ・テキスタイルのコレクターが多いんです。男性がベッドカバーとしてヴィンテージテキスタイルを何枚も使い分けて楽しむ姿は印象的でした」
そのほかテーブルクロスとしてはもちろん、夏の野外を楽しむ北欧らしく、ピクニックに出かけるときに布をもっていき、草原に広げて使うこともあるとか。一面の緑の上に鮮やかな色合いのテキスタイルのある風景、それだけでわくわくしませんか。
今回の企画展のためにセレクトされたアイテムは50点近く。パターンのリピートが長く、室内に風景が現れるような大きく広げて使いたいものを中心に、1点もののヴィンテージテキスタイルを販売します。力強いタッチでまっすぐなラインが描かれた「ラジュ」という石本藤雄さんによるテキスタイル。そしてロシアの湯を沸かす道具・サモワールのフォルムを大胆にあしらったマイヤ・イソラによるテキスタイル。ともにマリメッコ社製で、ベッドカバーやタペストリーにとインテリアに取り入れやすいシックな配色が魅力です。
逆に鮮やかな色合いで、テーブルまわりを楽しく演出したくなるのがボッコ社のアイテム。ヴォッコ・ヌルメスニエミによるシンプルな配色と線のみで構成されたコンセプチャルなパターンは、時を経ても色あせない力強さを感じます。そのほか木々や草花をモチーフとしたやさしい印象のものも多数。無造作にソファやクッションの上にかけたり、収納の目隠しに使ったりと、布に触れていると使い道が次々と浮かんできます。
企画展の英文タイトル「Impression of Textile Design」は、フィンランドのテキスタイルが、時に選んだ人の日々の心象風景を映したり、空間の印象をがらりと変えたりする存在であることを表しています。「北欧の人たちが暮らしの中で自然を写したモチーフや幾何学的なパターンなどテキスタイルを何枚か持つように、日本でもその時選んだ一枚の北欧の布に気分や季節をやわらかに託して、暮らしを楽しめるのでは」と、戎さんは言います。
ヴィンテージテキスタイルには工場が閉鎖されて廃番になった希少なものもありますが、現行品には過去のデザインを復刻し、色やスケールを変えるなどアップデートしたものも。年代に関係なく、フィンランドのテキスタイルに共通するのは普遍的なプロダクトとしての存在感。パターンは消費されることなく大切にアーカイブ化され、手に取ったときに積み重ねられ歴史を感じます。ものの良さを長く受け継いでいく確かさも息づいているようです。
表参道駅から根津美術館に向かう通りに面した古いビルの一室。 “後日決定”の意味をもつ“to be determined”の頭文字から名付けられた「t-b-d」は、学芸大学駅にあった北欧のヴィンテージ品を扱うショップ「biotope」のコンセプトをリファインした新店舗として、昨年秋にオープンしたばかりです。
北欧からはヴィンテージアイテム、アートセラミックスや工芸品など一期一会を大切にしたいものを。また日本からは北欧家具などと調和のとれるプロダクトを、オーナーの築地雅人さんを中心に独自の視点でセレクトしています。両者が出会ったときに魅力を高め合うような作用や発見をじっくり咀嚼して、ていねいに発信すること。そんな実験的な場として育てたいとの思いが店名に込められています。今年は日本の作家とコラボレーションする企画展も準備中といい、小さなスペースからの密度の高い発信に今後も期待が高まります。