AppleとGoogleが開発者向けに提供している、アプリのサンプル画面。2週間以内に接触していた人が陽性反応の登録をすると通知が表示され、その人と何月何日に接触したかの一覧が表示される。
AppleとGoogleは接触確認アプリの土台となるAPI(Application Programming interface)を開発し、すでに各国のアプリ開発者に公開しているが、彼らはその活用を“1カ国1アプリ“と定めており、誰にその開発を任せるのかは各国の衛生当局、日本ならば厚生労働省が決定権をもち、現在、厚労省内に任されている。
当初、この接触確認アプリの開発は企業ではなく、“シビックテック”と呼ばれる活動を通して開発されていた。シビック(Civic:市民)とテック(Tech:テクノロジー)を掛け合わせた造語で呼ばれるこの活動は、行政サービスだけでは解決できないさまざまな課題に対して、テクノロジーを活用して解決する市民レベルの取り組みのことである。
日本ではCode for Japanという活動が、5月のはじめにもアプリを完成させる準備があると発表をしていたが、その後、突如、政府は方針を変える。Code for Japanでは、それまでの開発が無駄にならないように、それまでに開発していた技術をオープンソースで公開するなどの紆余曲折があり、アプリの提供も1ヶ月以上遅い6月中旬となってしまった。
シビックテック団体「Code for Japan」が、日本政府と連携して開発していた「まもりあいJAPAN」。政府の突然の方針転換で不採用が決まってしまった。全国のデザイナーがリモートで連携し、アイコンを含めたていねいな画面デザインを行っており、その背景はデザイナーのひとりのnoteにもまとめられている。(https://note.com/5kaichi/n/n34f66741518a)
そのまま開発を続けていれば、日本は他の国に大きく差をつけて世界で同アプリの導入第1号になれていただけに悔やまれる。
行政と連携し、大規模災害で実力を発揮。
昨今、世界中の多くの国では、大規模な災害時にシビックテックとの連携を取ることが当たり前になってきている。
日本においてシビックテックの動きが活発化したのが、2011年3月11日に発生した東日本大震災だった。安価な放射線測定器を提供し、それを持ち歩く人々の情報を集計し放射線マップをつくるSAFECASTなどの活動が誕生し海外からも注目を集めた。
東日本大震災で大きな注目を集めたシビックテック「Safecast」。都内在住のアメリカ人らが中心に国際的な活動となり、全国の最新かつ細かな放射線値を知ることができ、高い評価を得た。
海外ではシビックテックを政府の活動に積極的に取り入れている国も多く、タイではシビックテック団体が頻繁に起きる洪水被害の警報システムを開発したり、米国では過去のハリケーン被害の状況を地図化する活動も行われている。
実は同じ日本でも、東京都では元ヤフー社CEOで現副都知事の宮坂学氏が中心となり、シビックテック団体、Code for Japanと連携。毎日の感染者の増減などの変化がわかる「新型コロナウイルス感染症対策サイト」を公開、高い評価を得ていた(その後、東京都が使用したこのサイトはオープンソース化されて他の自治体でも活用された)。
さて、シビックテックとの連携を躊躇したため提供は1ヶ月ほど遅れたが、日本政府提供の「接触確認」アプリも、今週中にも提供開始の予定だ。
そんなタイミングでは少し気の早い話かもしれないが、このアプリのリリースは、とにかく1日でも早く技術を提供することに主眼を置いたAppleとGoogleによる新型コロナ対策の第1フェーズに過ぎない。
Code for Japanが東京都のためにつくった新型コロナウィウルスの広がりを確認するためのサイト。情報が整理されて見やすいとデザイン的にも評価が高い。
接触確認は第2フェーズで、最大の効果を発揮する。
両社や世界の保険機関では、その後に訪れる第2フェーズこそがこの技術の本番と考えている。アプリをダウンロードして、インストールするというのは手間がかかり、あまり多くの人の利用が望めず、利用者が少ないと経済活動再開の希望を背負った技術も効果を発揮できない。そこで第2フェーズでは、アプリで提供していたのと同じ機能をiOSとAndroid双方のOSに標準で組み込む予定だ。
そうなれば、ダウンロードの仕方がわからない、面倒だという人も関係なく、スマホを所有する人が自然と登録し活用するようになる。iPhoneだけでも年間2億台が発売され、Androidを含めれば年間10数億台。また、双方の既存モデルを所有者を含めれば、実に世界人口76億人の半数、約40億人近い人がアプリの活用が可能となり、その効果は計り知れない。現在のコロナ対策といえば、地方自治体あるいは各国レベルの施策となっている。私がこの試みでもっとも希望をもっているのは、このAppleとGoogleという世界的な企業が提供する
接触確認アプリこそが、先進のIT 技術を活用し国境を超える初の国際的なコロナ対策となり、世界人口の約半数がこのアプリを活用することになった時の、絶大なる効果を期待しているからにほかならない。
APIを提供したAppleとGoogleにしても、各国のコロナ対策があまりにも違いすぎることもあり、各国の対応を伺っている状態であると思う。
接触確認アプリで新型コロナウィルスの感染を防ぐことが出来るわけではない。しかし、このアプリを活用し感染者と濃厚接触した場合、それ以上の拡大を防ぎ、大規模感染を防ぐ上ではもっとも有望な技術となる。 このことを一人でも多くの人が理解し、利用が広まり、新しい生活様式/仕事様式を続けながらも、再び国際的な経済活動が再開することを期待したい。