ITジャーナリスト林信行は、新iPad ProにAppleの“先取の精神”を見た。
iPad Proの新機能「LiDAR」で、なにができるのか?
去る2020年3月18日、Appleが新製品を発表した。発表されたのは、MacBook AirとMac mini、そしてiPad Proの3製品。なかでも注目を集めているのが、第4世代となるiPad Proだ。
新型iPad Proにおける最大のトピックといえば、発表前には噂にもなっておらず、誰もが予想していなかった新機能「LiDAR(ライダー)スキャナー」が搭載されたことだろう。これは、新たに搭載された専用レンズからレーザーを照射し、その反射光により対象物との距離を計測する技術で、衝突回避などクルマの自動運転にも活用される技術を転用したものだ。iPad Proが搭載するLiDARでは、周囲5mの周辺環境を3Dデータで習得できるという。
この技術を使って、なにができるのか。Appleは公式サイトで「AR(拡張現実)アプリがもっとリアルになる」と謳っているが、これまでもiPhoneやiPadでARを楽しむことはできた。しかし、これまでのARが認識するのは対象物の画像データであり、異なる角度から撮影した画像を解析しAR化したもので、その精度や正確性には限界があった。
その点、LiDAR搭載のiPadであれば、「測量」アプリを使って部屋やその中のインテリアプロダクトなどの長さを測る際、これまでよりも測量結果が正確なのはもちろん、いままで培ってきた画像認識の知見も活かし、ちゃんと角や辺を認識して選びやすくしてくれる。ARで部屋に充満した煙や水の映像を映し出す場合も、ちゃんと部屋の端がどこまでかを認識し、その境界線を正確に表示できる。さらにこの測量機能は屋内に限らず、屋外でも運用できる。
模様替えやARという例を出したので、それが最大のトピックかと思われるかもしれない。確かにLiDARは、現時点では一般に向けた機能とは言い難いのも事実だ。しかし、そうした実験的ともいえる機能を、いち早く搭載するのもAppleという企業の特徴といえる。
Appleの技術開発における、ふたつの方向性。
Appleの技術開発にはふたつの方向性があって、ひとつはテクノロジーがもたらす便利さや豊かさを、誰もが使用できる形に製品化し提供する方向。もうひとつが、将来的に必ず大勢の人に恩恵を与えるであろう技術を、先んじて製品に搭載するということだ。
後者の代表的な例といえば、USBやWi-Fiがその筆頭。1998年にリリースし、半透明のボディと多彩なカラーバリエーションで大ヒットした初代iMacは、シリアルポートやSCSI、ADBなどのインターフェースを廃止し、USBを全面的に採用。それまでもUSBを搭載したパソコンは存在したが、iMacの世界的普及により、各国の企業でUSBを採用した周辺機器が続々と開発されるようになり、現在に至るUSBの普及につながったといえる。
またWi-Fiも、その名前すら存在しなかった暫定規格の時代、無線LAN時代の到来を予期したAppleが、これも99年に発売されたノートパソコン、iBookの中にアンテナを内蔵したのが始まり。現在ではパソコンのみならず、誰もがスマートフォンでWi-Fiを利用する時代になっている。