ロン・アラッド
人目を惹く造形の「トム バック」は、もともとインスタレーション作品を構成する一要素としてデザインされた椅子でした。ロン・アラッドの作家性を象徴する独創的なフォルムと実用性が巧みに融合し、アートとデザインの境界を超えた存在となっています。
ロン・アラッドはロンドンの名門建築学校「AAスクール」を卒業後、自らのデザイン事務所を設立。1981年に既製品である廃車のシートと鋼管をコラージュした「ローバーチェア」でデビューします。独学による彫刻的な家具は話題を集め、またたく間に新世代のデザイナーとしてシーンの一翼を担うようになります。
そんなアラッドが1997年、ミラノ・デザインウィークでのインスタレーション用につくった椅子を原型とするのが「トム バック」です。67脚の椅子を積み重ねた彫刻作品「トーテム」のために、アルミニウムを真空成型で波状にうねらせたシェルを特徴とする椅子がつくられました。翌年、これをもとに量産化を図ったのがポリプロピレン製の座面をもつ「トム バック」です。ユニークな形で人目を惹き、見た目の先入観と実際の使い心地とのギャップで人々を驚かせるのは彼の得意とするところ。豊かなアート性と量産可能な製造工程によって「トム バック」は広く流通し、アラッドの代表作となったのです。
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