血液の循環を促し、集中力を高める椅子。
Vol.51
血液の循環を促し、集中力を高める椅子。
ティプ トン

バーバー・オズガビー

文:佐藤早苗 編集:山田泰巨

エドワード・バーバーとジェイ・オズガビーのデザインユニット、バーバー・オズガビーが2011年にヴィトラから発表した「ティプ トン」は、二通りの姿勢をサポートする、これまでになかったタイプの椅子です。体重を前にかけて前傾姿勢で座ると、背筋が伸びて血液の循環がよくなり集中力も高まるというから、テレワークにもぴったりです。

機械的な部品は一切使用しない、一体成形によるポリプロピレン製。椅子の先端を傾斜させることで、身体の体重移動に合わせて前傾姿勢もサポートします。サイズはW509×D555×H786×SH462mm。

体重移動で座面が前方に傾く「ティプ トン」。これまでにはない新しい座り方を提案し、デザインと機能の両面で椅子の新境地を切り拓きました。椅子の長い歴史において、その登場は21世紀の革命といえるでしょう。

そもそもの始まりは、デザイナーのエドワード・バーバーとジェイ・オズガビーがイギリスのティプトンという街に新設される学校から家具の選定を頼まれたことにあります。ふたりがリサーチを重ねたところ、教育方法はグループワークなどでアクティブに変わっているのに、スクールチェアは戦後から変わらず、適正な価格でふさわしいものがない。そんな結論に至った彼らは自らデザインを提案することに決めました。

彼らはオフィスチェアの研究をしていたヴィトラにコンタクトをとり、前傾姿勢で座ることが身体の負担を軽減し、血液の循環を促すことによって集中力が高まることを知ります。そこから2年以上の試行錯誤を重ね、現在の「ティプ トン」にたどり着きました。既存のエルゴノミックなオフィスチェアと違い、部品を一切使用しない、一体成型のポリプロピレン製。耐久性も高く、軽量で、100%リサイクル可能です。1脚あたりの椅子をつくるのに、かかる時間はわずか6分。大量生産可能でリーズナブル、スタッキングもできてインドアでもアウトドアでも使える椅子になりました。前傾姿勢を含むさまざまな座り方を可能にする椅子は現在、スクールチェアを超えて多くの場所で採用されています。

前方に傾く角度は9度。何度もプロトタイプを作成し、実際に座って導き出された角度です。

最大4脚までスタッキングが可能で、カラーバリエーションは8色展開(2020年5月現在)。

血液の循環を促し、集中力を高める椅子。