“七曲りのダンディ”現る!? BMWの新型M5は、ふた...

東京車日記いっそこのままクルマれたい!

第62回 BMW M5 / ビーエムダブリュー M5

“七曲りのダンディ”現る!? BMWの新型M5は、ふたつの顔が魅力の3人称系スポーツセダン

構成・文:青木雄介

編集者。長距離で大型トレーラーを運転していたハードコア・ドライバー。フットボールとヒップホップとラリーが好きで、愛車は峠仕様の1992年製シボレー カマロ改。手に入れて11年、買い替え願望が片時も頭を離れたことはない。

走行モードの設定は大幅に進化した。エンジンやハンドリング、サスペンション、駆動方式からギア比まで自分好みの設定を記憶させ、ハンドルのボタンひとつで呼び出せる。これがめちゃくちゃいい! ちなみにアロマディフューザーで車内の香りも選択可能。ちゃんと香りの説明も表示される(笑)。

M5は都内でよく見かけるけれど、実際その後ろ姿を目にするたびに「シブいな」と唸らされてきました。どこからどう見ても高級セダンなんだけれど、走りもそれとなくアピールしていて、実際速い(笑)。羊の皮を被った狼の代名詞だよね。とは言え実車を見ると、やっぱり威風堂々とした大型の高級セダン。さすがにM2、M3のような俊敏な運動性能は期待しなかったので東名、保土ヶ谷バイパス、湾岸線を回って(魅惑のストレートルート)、大人の余裕を満喫しようかと思っていたんだ。新型M5は、Mモデル初となる4輪駆動ということもあって、その思惑は外れていなかった。

高速走行でのM5は加速すると、目の前の渦に吸い込まれるようなV12テイストの加速をする。音は間違いなくV8だし、ちょっと硬めのBMWらしい高級サルーンの悦楽をもち合わせているのもわかった。ただ首都高3号から東名に乗ったあたりで、後輪駆動モードを猛烈に試したくなったんだ。600馬力を4輪で解放する走りが新型M5のアイデンティティなら、あえてDSC(横滑り防止装置)を解除して得られるFR(後輪駆動)の走りを、「なぜ残したんだろう?」と。それを試したくて、いてもたってもいられなくなったわけ。BMWがこだわった、もうひとつのアイデンティティが気になったんだ。

そこで小田原厚木道路から、箱根旧道(旧国道1号)に足を向けた。このルートはとにかく狭くてツイスティ。特に急斜面のヘアピンカーブが連続する七曲りは、最高のヒルクライムコースですよ。さて「600馬力のFRは?」というと、これが後ろからぐりぐり押される感のFRテイスト全開。でもオーバーステアになることもなく、狙ったラインにすっと入るハンドリング精度は、超が付く完璧さ。それでいて太めのハンドルが繊細な挙動を生み出す、BMWらしい骨太な走り。さすがに車重1.9tは急斜面では重くて、FRだともて余す感覚はあるものの、車重をスピードに乗せられる下りの箱根ターンパイクでの走りは、まさに人馬一体で素晴らしかった。

先代のM3(E92型)を思い出すに、BMWのV8エンジンは「やたらスパルタン」という印象が強いんだけど、このV8エンジンはまったくキャラクターが違う。高回転時でも排気音はハミングしているみたいに静かだし、アクセルレスポンスに多少の唐突感はあるものの、ドラムやベースのシンコペーションみたいな抑制の効いた低音がセクシー。後輪駆動でDSCを解除しているのに、リアなんか振る素振りさえ見せないよ(笑)。本当に大人なんだね。でもそれが悪いわけではなくて、ものすごく気持ちがいい。これはなんだろうと考えて、「クルマが視点を遠くにやることを推奨している」と、ふと思ったんだ。

つまりザ・ビートルズの「ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード」よろしく、追憶を交えながら(笑)、四季が織りなす自然の風景を、颯爽と駆け抜けるためのクルマなんだよね。ルートで言えば、伊豆スカイラインや蓼科のビーナスラインを走るのに、最もふさわしいクルマ。それってシューティングゲームで言うところの1人称視点(FPS)か、3人称視点(TPS)かの違いにも似ている。1人称視点でナローな峠やサーキットにもち込みたいのがM2、M3までだとすると、M5はその感覚の延長に、風景の中の自分を思い浮かべられる大人のドライブを標榜している。走った感覚はあるのに、あるべきはずの疲れがほとんど感じられないのも、それが意図されたクルマだから。ベースの5シリーズから1000万円高いM5だけれど、その理由は価格差以上にあるって感じだったな。

BMW M5
●エンジン:4.4ℓ V型8気筒ツインパワーターボ
●出力:600PS
●トルク:750Nm
●トランスミッション:8速AT
●車両価格:¥17,030,000(税込)~

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