豪華さで言えば、この3代目は非の打ちどころがない。ダイヤモンドステッチの内側にさらにダイヤモンドを重ねたり、スイッチ類や内装はダイヤモンドやクリスタルを意識させるような艶っぽい仕様。ヘッドライトの内側なんて、水晶の原石に囲まれた洞窟みたいにキラキラと輝いている。
そのゴージャスさは目を惹くわけだけど、本当の凄みはここからで、まずロー&ワイドに構えたクーペスタイルがヤバい。もはやベントレーにしか許されない丸目4灯のスタイリングを、新型に合わせてアレンジしてきたデザインって言うのかな。定番のリアホイールまわりのクラシカルな丸みと、なだらかにテールエンドに落ちていくクーペらしいルーフラインが強調されていて、ベントレーの意図するアンダーステイトメント感(控えめさ)とともに、妙な凄みも出てきている。
それが、たとえば前7対後ろ3のアングルで見ると、全体が黄金律を意図したかのような、完璧なバランスで構成されているのがわかるんだ。すうっと伸びやかに入っているキャラクターラインも、現代的でとても美しい。マイアミ・バイスか、音楽プロデューサーのドクター・ドレーのような「アンダーカバー(覆面捜査)感」って感じだよね。つまり素性を明かさない、謎が多い人物の魅力や物語を想像させる演出に、ひと役買っている。
走りに関して言えば、W型に設計した12気筒エンジンなんだけど、パワーがいらない時は静かにコンフォートで6気筒だけ使ってエレガントに走る、グランツアラーらしい身のこなしが素敵。3層式のエアサスの空気圧をモードによって変えつつ、路面からの入力を受けるのではなくシンコペーションの効いた反発で跳ね返す感じ。
だから硬くもなく、軽快さも失われない。スポーツモードでアクセルを踏み込めば、まず12気筒の目覚めとともに2.3tの車体が瞬時に前方へとワープする。これがいわゆる背中を蹴られるような加速とは違って、シートに身体が押し付けられるような、一瞬息が止まるような加速なんだよね。
急な坂なんかでアクセルを踏み込むと、ツインターボがキュイーンと回転する音が聞こえてくる。ものすごくメカニカルな演出だし、4輪駆動とはいえ、ほぼFR特性なハンドリングとあいまって「これ以上のクーペってある!?」って気になる。これぞ「いっそこのままクルマれたい!」。男子畢生、一期一会の一台ですよ。