黄金比の美学と理知の果ての複雑さ、これぞ一流の証し。
両天秤の腕時計
文:並木浩一 写真:宇田川 淳

黄金比の美学と理知の果ての複雑さ、これぞ一流の証し。

03

PATEK PHILIPPE
パテック フィリップ

最もシンプルな時計と、いちばん複雑な時計。どちらのほうが優れているかを尋ねるのは愚問だが、それでも考えたくなるのはこのブランドだからだ。パテック フィリップでは切り詰めたミニマルな時計の美しさが、人智の極みのような複雑機構と等しい価値で並び立つ。世界最高峰と評されるつくり手の時計は、それぞれに頂点を示す存在なのである。
「ゴールデン・エリプス」は、その名の通り楕円(ellipse)のフォルムをもつ。しかしそれは普通の図形などでは決してなく、楕円を収める長方形を想定すると、短辺と対角線の比は黄金比(1対1.618……)の近似値を示すのである。  
フィボナッチ数列からも導かれる1.618……は、数学の世界ではφの記号で表される“黄金数”。いっぽう黄金比は、古代ギリシャで発見したとも伝えられる、美学の歴史が最も美しいと認めてきた比率でもある。ゴールデン・エリプスの幾何学的な特性は、心地よい安定感で人の心を捉えるかたちでもある。ラージサイズで極薄5.9mmのケースを得た新作は、放射状のソレイユ仕上げを施したブラックの文字盤に、黒のオニキスをリューズにあしらった。華やかながら抑制が効いた、上品なドレスウォッチの精華だ。  
対して「永久カレンダー 5496P」は、レトログラード式の日付表示という離れ業も備えた複雑時計だ。小の月と大の月、平年と閏年の2月はそれぞれ、扇形を描いて進行する針のフライバック点が異なるのである。その超絶な機構は新作で、シルバーカラーの文字盤にローズゴールドの針にインデックスと、ツートーンに仕上げられた。人並み外れた複雑さを誇示するのではなく、どこまでもノーブルに見せるのである。  
美学を極めるシンプルの裏に数学があり、理知の果ての複雑は上品に装う。本物はいつも、どこまでも一流なのである。

  • レトログラード日付表示針付永久カレンダー 5496P

    自動巻き、永久カレンダー、プラチナ、ケース径39.5mm、レトログラード日付表示、曜日・月・閏年・ムーンフェイズ、サファイヤクリスタル・バック+通常のケースバック、手縫いのアリゲーター革ストラップ、30m防水。¥12,679,200(税込)

  • ゴールデン・エリプス 5738

    自動巻き、ローズゴールド、ケースサイズ34.5×39.5mm、ケース厚5.9mm、エボニー・ブラック・ソレイユ文字盤(18金プレート)、オニキス付きリューズ、ブリリアント・ブラックの手縫いアリゲーター革ストラップ、30m防水。¥3,628,800(税込)

●パテック フィリップ ジャパン・インフォメーションセンター TEL:03-3255-8109

黄金比の美学と理知の果ての複雑さ、これぞ一流の証し。