タイカンはそのキャッチフレーズ通り、まさに「電動化された魂」であり、漫画『進撃の巨人』におけるトリガーである「壁の中の巨人」の始動にも似て、「敵いっこないわ……」と多くのペトロールヘッズ(ガソリンエンジン至上主義者)を絶望の底へと叩き落すに十分なのだ。
そんなタイタンもといタイカンは(笑)、電動化によって、ポルシェがもともともっているスポーツ性能をより研ぎ澄ます進化を果たしたと言えるだろう。
もとよりポルシェは、「ポルシェを着る」という言葉があるように、身体性の延長としてのクルマづくりを得意としてきた。4輪がしっかり路面を捉えるトルクベクタリングの精緻なマネジメントを進化させ、動力さえも電子制御することにより、エヴァンゲリオン風に言えば(クルマとドライバーの)「シンクロ率がより高まった」と感じられるんだ。そしてポルシェが先陣を切り、自信をもってEVスポーツを世に突きつけた理由は、そのシンクロ率の高さにあることが、すごくよくわかるのね。
この一体感を象徴するのが、Eスポーツサウンドというタイカン独自のSFチックな疑似出力音。アクセルペダルの出力値を聴覚で認識させてくるので、迫りくるコーナーにひたすら没頭させてくれる。サウンドで高まる没入感とシンクロ率。「もうずっと上り坂だけでいい」と思えるほどですよ(笑)。しかし頂上にたどりつくと、ハタと気づかされるんだ。「これってゲームの熱狂と一緒じゃん!」ってね。
将来的にサウンドを変えてジェットエンジンの音にすることも可能だろうし、ノイズキャンセリングで無音状態にすることも可能だろう。いっそ運転だって、ジョイスティックのコントローラーでこと足りるかもしれない。モニターで囲って、モルモットがクルマになった話題のアニメ『PUI PUI モルカー』の世界に改変することだって可能かもしれない(笑)。っていうか、おそらく可能ですよ。
EVは、積極的にフィクションの世界に足を踏み入れているんだ。それもノンフィクションのリアルな手触りに少しずつフィクションを混ぜ込んで、新感覚のリアリティを獲得しようとしている。移動それ自体を除けば、VRが視覚で脳を錯覚させるフィクションとは反対の裾野から、同じ頂を目指しているとも言える。
昨今の高級車はもちろん、ハイパワーなスポーツカーでさえ静音が施され、本来のエンジン音をアレンジしたフィクショナルな方向に向かっている。そのトレンドの先端にいるのは、現在のところ、「このタイカンに他ならない」と確信したんだ。
とはいえ、賢明なビル・ゲイツにも見落としがあったかもしれない(笑)。買わない理由を見つけるのが難しいタイカンだけど、ダウンヒルはやっぱりエンジンの不在を痛切に感じるんだ。ブレーキングは、9割の制動力を回収するというアクセレーター(回生ブレーキ)が主役だから、よく効きはするもののポルシェの代名詞とも言える剃刀のような切れ味まではいかない。
シフトワークを一切使用しないで、フットブレーキだけで坂を下る2.3トンのスポーツカーを想像してほしい。せめて回生ブレーキの強弱をパドルシフトで変えられるようにしてほしかったというのが実感なんだ。この時ばかりは内燃機関の咆哮とトランスミッションのアナログさが、恋しくてしかたなかった。爆発しつづけるエンジン。その熱い心臓の鼓動は、合理化が進む時代においても、魅力が消え去ることはない。そんなエンジンの個性が、よりいっそう明確になる時代が来たって気がするんだな。