「忘れらんねえよ」柴田が気に入った、恋が叶う餃子とは?
アートディレクターの古谷萌、コピーライターの鳥巣智行、菓子作家の土谷みお、建築家の能作淳平が、料理人とは異なる視点から新しい餃子づくりに取り組む「トゥギョウザー」。4人が毎回、さまざまなゲストと会話しながら、これまでにない餃子をつくる。そんな活動です。
5回目のゲストは、バンド「忘れらんねえよ」の柴田隆浩。ボーカルとギターを担当し、作詞作曲も手がけます。いま、メンバーは柴田ひとりだけだとか。今回は柴田を含む5人で、バレンタインに役立ちそうな餃子をつくってみたいと思います。
鳥巣 僕は1年前に大変な別れを経験しまして。その頃、忘れらんねえよの「別れの歌」をよく聴いてました。バンドのメンバーが辞めることを歌ったあの曲を聴いて、自分の別れも方向性が違ったんだなと理解できるようになりました。そうかと思えば、新曲の「君は乾杯のとき俺とだけグラスを合わせなかった」は面白くて。柴田さんの曲には、いろんな感情がありますよね。
柴田 別れの歌はシリアスで真面目。一方の「乾杯のとき〜」はギャグだけど、さみしい男の気持ちを歌ってて、自分の中にあるシリアスとギャグをひとつにまとめることができた曲です。笑えるけど、心の中で泣いている。ギャグにしているけど、心に傷を負っている。そういう表現をしていきたいですね。ちなみに、「グラスを合わせてくれなかった」女の子は実在するので、あのミュージックビデオを見られたら、「柴田、気持ちわる」って思われると思います。
鳥巣 2015年に「気仙沼さんま寄席」を観に行ったら、サンドウィッチマンが出演してて。ずっと東北復興をやってきた彼らのコントを見てると、めちゃめちゃ面白いんだけど、めちゃめちゃ泣ける感じがありました。柴田さんの曲も、ちょっと似てる感じがします。
柴田 僕は他の天才肌のミュージシャンと比べたら普通の人間タイプで、普通の人にしかわからない、普通の人がショックを受けるような出来事や感情をていねいに拾って、曲にしたいと思っています。
古谷 観察力がすごいですよね。飲み会で、グラスを合わせてくれなかった時に、「これ、曲になるかも」って思ったんですか?
柴田 そういう時は、正直、おいしいなって思いますね。心がビビッドに動いた瞬間というか。でも、歌詞にある通りその飲み会自体は辛くて、二次会にその女の子は来ないし、「クソ無駄な飲み会だわ」って悪態づいて、べろべろに酔っ払って帰りました。翌朝、目が覚めて二日酔いの状態で書いたのがあの歌詞。理屈じゃなくて、本能で書いたものをそのまま歌詞にしました。
鳥巣 柴田さんの曲は、恋愛要素というか、女性との交わりがテーマになることが多いじゃないですか。でも、バンドマンはモテるんじゃないかと思うんですけど。
柴田 それは幻想。まじでモテねーっすよ。ライブに来てくれる人も、女性も多いんですが、他のバンドに比べたらかなり男性が多くて、育てゲーみたいな感覚なのか、「柴田ってしょうもないな。でも、どこまでいけるか見届けてやるか」という空気感を感じます。結論としては、音楽をやっててモテる人は、もともとモテる人。そこに音楽という才能が加わってさらにモテている。モテねーやつがバンドやってもモテねえすよ。
土谷 そういうのも、柴田さんのエネルギーになっているということですね。今回はバレンタインにちなんで、みんなで「恋が叶うギョウザ」を考えてきました。
まずは鳥巣のアイデアから。
鳥巣 「ギョウザをつくる時の36の質問」というのを考えてきました。「誰でもディナーに呼べるとしたら誰がいいですか」とか「自分と相手の共通点を3つ教えてください」など、もともと大学の研究室で生まれた「恋に落ちる36の質問」というものを元にしています。でも、いきなり36の質問をするというシチュエーションは普段なかなかないので、餃子をつくりながら、「餡をつくるときのカード」とか、餃子づくりを通して、自然に質問して、相手のことを知っていけるというカードです。
柴田 酒がないと女子とうまくしゃべれない僕にとっては、こういうカードがあるといいですね。あいつらなに考えてるかわからないし、すぐ俺のこと嫌いになるんですよ。でもこのカードを使ってる時点で、半分告ってるようなもんだし、そもそもギョウザのアイデアではないですよね。
続いて、古谷のアイデアです。
古谷 僕の超キモいんですけどいいですか。「君の髪の毛を食べたいギョウザ」です。
一同 やばいやばい。
古谷 これは願かけというかもはや呪術的で、まずは好きな人の髪の毛の長さを目測します。黒い麺をその長さに切って、餃子の皮に包んで焼いて完成。
土谷 キモい。
能作 完全に犯罪。
柴田 5番のところ、なんて書いてあるんですか。
古谷 「意中の相手と一緒に食べると恋が叶う可能性UP!」です。「ジョジョの奇妙な冒険」に、髪の毛を食べさせるスタンドが登場するのが元ネタ。かなりキモいんですけど、柴田さんがゲストならこういうのありかなと。あと、トゥギョウザーをはじめた頃、いろいろ試してみたら、餃子にラーメンの麺を入れたらおいしかったというのもあります。
土谷 私は「フォーチュンギョウザ」です。フォーチュンクッキーをベースに考えたもので、餃子の皮をクッキーの皮に見立てて焼き、その中に恋にまつわる言葉が入っています。餃子はあまりデートで食べるものではないという考えから、餃子要素をできるだけなくすというのが、発想の出発点でした。
柴田 ニンニク入ってるし?
土谷 はい。臭いは、これから始まる人間関係において大切。「悪人」という九州が舞台の映画があって。満島ひかりが演じる女の子が、好意を持つ男の人と会う前に、鍋焼き餃子みたいなのを食べるんですね。そしたら、その人とたまたまドライブすることになって、男が車内で「なんか臭くない?」ってなるんですよ。それで、「餃子食べてきた」って返したら「なんで餃子食べてくるの?」ってなる。そこから空気が悪くなっていって。。。最終的に女の子は死んじゃうんですけど。男女の関係においては、悪にもなりえてしまうのが餃子。それに引き換え甘いものは人をいい気分にすることが多いので、バレンタインデーにお菓子をあげるのは理にかなっていると思いました。
能作 僕のアイデアは、バレンタインデーにちなんで、ウィスキーボンボンがモチーフの「ギョウザボンボン」です。小さい頃のバレンタインデーの記憶で、大人がもらったウイスキーボンボンを食べたなと。それをイメージして、餃子の皮で酒をそのまま包んだみたいなイメージ。口に入れると、肉汁の代わりにお酒が溢れ出す。
柴田 酔っ払わせるみたいな? でも、焼いたらアルコール飛んじゃいますよね。
能作 笑。飛ばないくらいたっぷり入れるから大丈夫です。例えば、お酒をゼラチン状の煮こごりにして餡にするとか。
古谷 いろんなお酒でつくれますね。紹興酒とかテキーラとか。
能作 皮にも、お酒を練り込んでみるといいかもしれません。
柴田 アイデアが全部面白い。みんな、ギョウザ愛が異常ですね。
そして、4つのアイデアから柴田が選んだのは、古谷の「君の髪の毛を食べたいギョウザ」でした。その理由は?
柴田 だってこれ、ぜんぜん意味がないんですよ。他の3つは、ちゃんと恋が叶う方向に向かっていますけど、これはモテない。
古谷 この事実が発覚したら、相手に嫌われるだけですからね。
柴田 これをつくっても絶対にプラスにはならないし、むしろ、マイナスにしかならない。でもそこが、僕のキャラクターに合ってます。ロックンロールの無意味感というか、意味ねー感がいいですね。ちなみに僕は、ボブが好きです。
今日つくるメニューは、君の髪の毛を食べたいギョウザに決まりました。