夏の夕暮れの一杯に!涼し気で旨味あるピノロゼ
ラベルに描かれた文様はどこか神秘的。見慣れた日本ワインのラベルとは、やや異なる印象です。その名は「イレンカ ピノ・ノワール ロゼ」。北海道の岩見沢で生まれたワインです。
「イレンカはアイヌ語で理想や希望という意味があります。ラベルに描かれている渦巻きは、モレウと呼ばれるアイヌ文様ですが、循環を表現しています。ワインづくりに関わるにあたり、自然やさまざまな人と共生していく中で、色々なものが循環して、自分もワインも育っていきたいという願いを込めました」。少し恥ずかしそうに語ってくれたのは、このワインをつくった永井邦代さん。彼の地で、1ヘクタールのブドウ園のブドウをひとりで育て、このワインをつくった女性です。
彼女の前職は、化粧品会社・日本ロレアルの社員。職種は秘書でした。ワインを飲む機会こそ多かったものの、化粧品会社だけあって日光に当たることを極力避けるという、ブドウの栽培とは縁遠い生活でした。
しかし人生とはわからないものです。長年の上司が退職してカナダに帰国するにあたり、その上司は日本になにかを残したいと北海道でワインをつくることを考えたのです。育てるブドウは永井さんが愛してやまないピノ・ノワール。しかも開園するという畑は、北海道でナチュラルなワインづくりを伝えているブルース・ガットラヴさんの畑の隣にあるといいます。加えて収穫後は、ガットラヴさんのワイナリーで醸造できる(※)というのです。その話を永井さんは聞き、北海道でなら大好きなピノ・ノワールのワインがつくれるかもしれないと考えました。そして永井さんは、北海道のブドウ畑でワインをつくるために、22年間勤めた会社を辞めたのです。
冒頭で記したように、永井さんがワインをつくる上で大切にしているのが、自然との共生。たとえば農薬の使用量は、ピンポイントで少量を撒くようにすれば減らすことができますが、タイミングが極めて重要になってきます。2016年は、そのタイミングを逸して病気と虫害が広がってしまい、せっかく実った房も泣く泣く落とさざるを得ませんでした。
「その年はつくるのはもうやめようかとさえ思いましたが、先輩のつくり手のアドバイスもあり、少量のロゼを仕込んでみました」と、永井さん。周囲の仲間たちにも手伝ってもらい、総勢6人で1日かけて徹底的に選果を行ったところ、仕込み量は前年の5分の1にも満たなかったそうです。そして3日間だけ果皮と果汁を一緒にして、あとはさっと絞って発酵するのを待ちました。
こうして出来上がったのがこのロゼワイン。樽で寝かせることがなかったせいか、ラズベリーのような果実の印象は実にピュア。綺麗で涼し気なニュアンスは果実味を支える酸の影響でしょうか。香り高く、ロゼといえども存在感は十分。印象的な旨味に心惹かれます。ピノ・ノワールでつくるロゼの可能性を感じさせてれる1本です。夏の夕暮れにどうぞ。
*実際に永井さんがブルースさんの監督のもと醸造していますが、委託醸造という形をとっています。
自社管理面積/約1ha
栽培醸造家名/永井邦代
品種と産地/ピノ・ノワール(北海道岩見沢市)
ワインの容量/750ml
価格/¥3,240(税込)
つくり/手作業で除梗と破砕後、3日間の低温浸漬。その後バスケットプレスで搾汁して、低温にてデブルバージュ後、ステンレスの発酵タンクへ移動。野生酵母による発酵が25~30日間。アルコール発酵後、そのまま澱と一緒に約9カ月熟成させる(その間、自然なマロラクティック発酵あり)。粗い澱引きをへて 2017年9月に瓶詰。16年は補糖あり、補酸なし。清澄・濾過なし。生産本数は215本、アルコール度数12.0% 、総亜硫酸添加量:40ppm
栽培/リュット・レゾネ。化学合成肥料・除草剤の散布はなし。不耕起草生栽培。殺菌剤は、有機認定農薬(ボルドー、納豆菌系)のみ使用。殺虫剤は、生物農薬で対応不可能だった場合は最小限の化学農薬を年に1回~数回使用。
問合せ先:イレンカ
http://www.irenka.co.jp/about.html
info@irenka.co.jp
※この連載における自然派ワインの定義については、初回の最下段の「ワインは、自然派。について」に記載しています。さらに毎回極力、栽培・醸造についての情報を開示していきます。