喉越しが心地よく、思わず飲み干してしまう赤。
05
鹿取みゆき・選&文  尾鷲陽介・写真

喉越しが心地よく、思わず飲み干してしまう赤。

2017 マスカット・ベーリーA MCサンスフル ドメーヌ・テッタ

2016年、岡山県新見市に新しいワイナリーができました。その名は「ドメーヌ・テッタ」。農業生産法人としてワインづくりのスタートを切っており、ここでつくられるワインはすべて自社農園産。「ドメーヌ」(※)という言葉がついているのはその証です。栽培から醸造まで、一貫してワインづくりを担っているのは片寄広朗さん。彼はブドウの力を信じて、果汁は搾ったまま、糖も酸も加えずに、自発的に発酵が始まるのを待ちます。その理由を片寄さんはこう話します。

「海外の酵母を使ってつくられたワインをテロワールの表現とすることに違和感を覚えます。野生酵母で発酵させ、亜硫酸や添加物を使う量を極力減らして、ブドウ100%により近い、素直に飾らず、あるがままのワインをつくりたいのです。それこそが、テロワールを映し出すワインづくりなのではないでしょうか?」

また、片寄さん自身が、亜硫酸に対してアレルギーがあるのか、亜硫酸の摂取量がある程度を超えると、頭痛どころか喘息になってしまうことがありました。対してナチュラルワインと呼ばれるものを飲んでも、そういった症状はほとんど出ない、起きたとしても、とても軽いことが多かったそうです。人の身体に優しいワインづくりをするということも、彼の想いの根底にあるようです。そして、まもなく発売される「2017 マスカット・ベーリーA MCサンスフル」は、亜硫酸塩をまったく加えずにつくりました。タンクの中をブドウの房で一杯にして炭酸ガスで満たして待つこと約3週間(!)。その後、果汁を搾ってそのままゆっくり4カ月間ほど発酵させ、発酵が終わる直前に瓶詰めしています。もろみをパンチングダウンしたり、果汁を回転させたりという果皮から成分を引き出すための抽出作業を一切していません。そう、片寄さんの言うように、「ブドウの力だけでつくったワイン」なのです。もちろんこうしたつくりをするために、農薬を使う量を減らし、病気になった果実を完璧に取り除くという作業も続けています。 

片寄さんに2年前に出会った頃は、これまでワインがつくられたことがない土地でのワインづくりがスタートしたばかり。その時彼は、「すべて好条件とは言えないけれど、この土地には可能性があると信じて挑戦しています。人々の心に残るワインをつくることができるつくり手はほんのひと握りかもしれませんが、その果てのない大冒険に向かって突き進みます」と語ってくれました。

2017年のサンスフルのワイン。わずかに広がる泡とともに、口の中にはイチゴ、ラズベリー、梅、シナモン、アニス、オレンジと、香りが次々とあふれてきます。スルスルと喉越しがよくフレッシュな果汁のようで、思わず「うまい!」 のひと言が口をつきます。気が付くとグラスを飲み干してる。そんなキュートなワインです。


※フランスでは100%自社農園、自社管理農園のブドウのみでワインをつくる醸造所をドメーヌと呼びます。

発売は10月中旬予定。抜栓前に冷蔵庫で瓶を立ててしっかり冷やすことをお薦めします。抜栓後は飲み切ってもよし。数日かけて楽しんでもよし。亜硫酸無添加にしたのは、ガスが残るものの硬さがない仕上がりになるから。また、自然の恵みをすべて表したいと思ったからだといいます。ラベルはアートディレクターの平林奈緒美がデザイン。イラストは、ポルトガル人のクリエイター、ウェイステッド・リタによるもの。

ワイナリーの創業者は高橋竜太さん。荒れ果てた景観を立て直そうと、ワインづくりを考えました。岡山はブドウ産地として知られているのですが、ワイン用ブドウの栽培はそう簡単にはいきません。現在、30品種以上のブドウを栽培しており、どの品種がテッタのワインとして適しているのか、見極めています(そのうちの10品種は試験的にごく少量植えているだけ)。

自社畑面積/8ha(その内ワイン用は4haだが収穫可能なのは3ha)
栽培醸造家名/片寄広朗
品種と産地/1.シャルドネ、 2.マスカット・ベーリーA、3.メルロ、 4.カベルネフラン、 5.ピノノワール、 6.ソーヴィニヨンブラン、 7.シュナンブラン、8.ピノタージュ、 9.プティマンサン、10.ネッビオーロ、 11.ピノグリ、 12.アルバリーニョ、13.タナ、 14.サンジョヴェーゼ、 15.ステューベン、16.ヴィオニエ、 17.甲州、 18.リースリング、 19.ケルナー、20.ピノブラン。以上は最低50本以上植わっていて単一で仕込めなくはない品種。そのほか10品種あり(以上岡山県新見市哲多町)。
容量/750m
価格/¥2,808(税込)
つくり/全房のまま3週間放置後、果汁を取り出して野生酵母で約4カ月発酵。亜硫酸塩、酵素類は無添加。無補糖無補酸。栽培は除草剤・化学合成肥料散布なし。農薬散布は年間12回だったが8回に減らし、6回に減らした区画あり。殺虫剤は4回からほぼ1回へ移行中。ボルドーは5回から3回に移行済み。その他の殺菌剤を削ったり、濃度を薄めたりして使うようにしている。
問い合わせ先/
ドメーヌ・テッタ
TEL:0867-96-3658
http://tetta.jp


※ 「ワインは、自然派。」について
本連載では、ブドウの栽培からワインの醸造まで、できるだけ自然につくられた自然派ワインやナチュラルワインを紹介していきます。「自然につくる」とは、どういうことでしょうか? この連載では、醸造に関しては、「人の介入を最小限にすること」としています。 発酵では、「仕込み、あるいは瓶詰め時に亜硫酸を添加しないこと」。あるいは「添加したとしても 極少量に限定していること、培養酵母は使わずに野生酵母に発酵を委ねること、添加物を加えないこと」。また、「糖分を加えたり、酸を調整したりはしないこと、清澄剤も使わず濾過も行わないこと」。これらを実践すること、と捉えています。栽培に関しては、化学合成農薬の不使用を前提としたいところですが、日本の気候条件下において、有機農業でワイン用ブドウを栽培するのは、現状では非常に困難であるため、時には最低限の農薬を使用せざるを得ない状況です 。また、原則として、除草剤や化学肥料は使わないことも前提です。こうしたワインづくりを実践しようとするのならば、それだけブドウは健全なものでなくてはならなくなり、醸造では細やかな心配りも欠かせなくなります。連載では、風土に敬意を払い、できるだけ自然にブドウを育て ワインをつくろうとするつくり手たちと、彼らのワインを紹介します。このワインについては、異物を取り除く程度のろ過を実施していますが、今回はそれでもナチュラルなつくりをしていると判断しました。

喉越しが心地よく、思わず飲み干してしまう赤。