フィンランドのモダニズムの原点を築いた建築家・エリエル・サーリネンの展覧会が開催
フィンランドのモダニズムの原点を築いた建築家、エリエル・サーリネン。そのデビューから1923年に渡米するまでのフィンランド時代にスポットを当てた展覧会『サーリネンとフィンランドの美しい建築』 が、2021年7月3日(土)よりパナソニック汐留美術館にて開催される。
サーリネンは1873年ランタサルミ生まれ。ヘルシンキ工科大学在学中に出会ったヘルマン・ゲゼリウス、アルマス・リンドグレンと共同で設計事務所を設立、1900年のパリ万国博覧会でフィンランド館を手がけてデビューを果たしている。初期の作風は当時、ロシアからの独立を求めナショナリズムが盛り上がっていたフィンランドを席巻していた芸術の潮流、ナショナル・ロマンティシズムの建築的な表現といえるもの。アール・ヌーヴォー様式を取り入れながら民族独自の文化的ルーツを表現した建築は、国民を大いに鼓舞した。
3人はその後、静かな自然のなかで暮らしながら協働し、芸術家たちと交流できる理想の生活の場として、ヘルシンキ郊外の湖畔に設計事務所兼共同生活の場としてヴィトレスクを設立するが、1905年に解散。サーリネンはその後もヴィトレスクに住み続けながら、住宅、商業建築、公共建築、駅や都市のデザインと、次第に設計活動の幅を広げていき、その作風も、多様な文化を受け容れつつ民族のルーツを希求した初期のスタイルから、独自の形態を通じて新しいフィンランドらしさを提示しようというモダニズムへと展開していく。
本展では、彼が1923年に活動の展開を求めて渡米するまでのフィンランド時代にフォーカス。図面や写真、家具や生活のデザインといった作品資料を展示する。第1章では新たに制作した模型とともにフィンランド館を紹介するほか、民族叙事詩『カレワラ』に着想を得た建築装飾が美しいポホヨラ保険会社ビルディングや、フィンランド国立博物館といった初期の大作を紹介。第2章では、自然の中の暮らしの理想を体現、サーリネンの建築の原点となったヴィトレスクについて、家具の展示やダイニングルームの空間再現を通じて紹介する。
また、第3章では住宅建築を取り上げ、3人の共同建築設計事務所が手がけたウーロフスボリ集合住宅・商業ビルディングやエオル集合住宅・商業ビルディング、そして個人の邸宅についての資料を、テーブルウェア、テキスタイル、家具などと併せて展示する。さらに第4章では、サーリネンが民族性と公共性の融合に成功した、ヘルシンキ中央駅をはじめとする大規模公共事業について紹介する。
1923年に渡米してからは、自ら設計した美術学校、クランブルック・アカデミー・オブ・アートで教鞭をとるほか、後にミッドセンチュリー期を代表する建築家となった息子のエーロと建築事務所を設立、大きな成功を収めたサーリネン。本展は常に革新を求めながら、自然や風土に根付いた建築観・デザイン観を持ち続け、後進に多大なる影響を与えた彼の原点に触れる、またとない機会と言えそうだ。