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町で見つけたアイデアを、「編集」するデザイン
四方八方から伸びるアームが、針金をつついて、バネができる……。そんな町工場の製造機械の映像と、気鋭のトラックメイカーを組み合わせた作品が話題の音楽レーベル「インダストリアルジェーピー」。このレーベルは昨年のADCグランプリなどを受賞。その仕掛け人のひとりである下浜臨太郎の、才能のキーワードは「編集」だ。
「小学生の頃、藤子不二雄に憧れて漫画雑誌をつくり始めたら、漫画ではなく雑誌づくりに夢中に。友だちに漫画を描いてもらったり、読者の応募コーナーをつくったりしていました」
美大卒業後、電通に入社。アート・ディレクターとして働くかたわら、2台のガラケーが連動する待ち受け画面や、SNSスタンプの先駆け的アプリ「チャットペット」をつくったりした。2013年には仲間と「のらもじ発見プロジェクト」をスタート。町中の個性的な看板の文字を採集し、フォント化するプロジェクトだ。フォントはウェブでダウンロードすれば誰でも使えるようにした。これが翌年に文化庁メディア芸術祭優秀賞を受賞する。
「古い看板の文字は、看板屋さんやお店の人が手描きした一点モノ。デザイナーに依頼したものではない『のら(野良)もじ』にも、素敵なデザインがあると伝えたかったんです」
2016年、多くの賞に輝いた「インダストリアルジェーピー」の活動を開始。先輩が、ある工場の社長から「町工場のイメージを変えたい」と相談を受けたことがきっかけだった。
「調査の過程で町工場が出展している展示会に行きました。そこでバネの製造機の映像を発見して。『なんだこれは⁉』と惹きつけられ、映像に音楽を合わせてみたんです」
グッドデザイン賞では、このレーベルの社会性が評価された。しかし下浜は「僕にはそんな意識はあまりない。町にあるものを編集して形にしたら、自然と社会性があるようになっただけ」と言う。そんな下浜のアイデアの扉は、やはり町にある。
「自分の中に発想はないから、外に出ます。そして見つけた素材を編集して、いろんなメディアに落とし込むことに興味があります。それを『作品』と呼べるかはわからないけど、雑誌も編集長が変われば変わるように、編集にも個性が出ると思うんです」
昨年、電通を退社しフリーに。今後はなにを発見し、どんな編集を見せてくれるのか、期待したい。
「のらもじ発見プロジェクト」では、看板から作成した書体を額装して店にプレゼント。フォントの売り上げも寄付した。
photo :Harumi Ikeda