「山崎博 計画と偶然」に、クールなコンセプトに裏打ちされた静謐と豊饒を観る。
東京都写真美術館では、総合開館20周年記念の一環として、「山崎博 計画と偶然」展が開催中です。
山崎は、1966-67年、学生時代から寺山修二らの劇団「天井桟敷」に参加、68年には大学を中退し、カメラマンとして活動を開始します。寺山や赤瀬川原平、土方巽、粟津潔など、当時の前衛芸術家・舞踏家たちの活動のドキュメンタリー写真や、映画フィルムの制作をしていましたが、やがて写真に対する思索を深め、独自の作品を生み出しました。その追求は現在も続いており、コンセプチュアルな写真・映像の先駆者と位置づけられています。45年以上のキャリアを主要な作品シリーズで追う、山崎博の作品世界。美術館では初めての展覧会であり、「コンセプチュアルな表現」を現代の視点で問い直す、示唆的な内容になっています。
光と時間をとらえる“機械”が生み出す写真という“像”の特質に着目した彼は、70年代初めより、「いい被写体を探して撮る」ことへの疑問から「被写体を選ばずに撮る」ことを模索し始め、自宅からの景色や、特徴を持たない海景など、提示された枠組みの中で表現が持つ力を引き出す、というスタイルに行き着きます。それは、タイトルにある通り、枠組みを定義する「計画性」と撮影することで起こる「偶然性」が共存する作品に昇華しました。
「太陽」や「海」「桜」など、自然が持つ普遍性と、彼が切り取る刹那が、拮抗し、同居する作品は、光と時間の推移をとらえ、時に抽象的な世界に通じながら、詩的な美しさとニュアンスある静謐な世界を魅せます。同時に写真装置とそれがとらえる対象、そこに映る像と生み出されるイメージとの関係性へも意識を促します。
限りなくミニマムなコンセプトがみごとに作品の中に込められ、「与えられた風景」の多様な表現と強さを提示する空間は、コンセプトそのものが重視されがちな現代の表現に対する、ひとつのアンチテーゼにも感じられます。
「限定された方法(コンセプト)とは、決して不自由な方法を意味せずに、シャープな方向性を確保するための装置であるのだろう。そのようにとらえれば、写真はコンセプトに従属せず、コンセプトは写真に奉仕する」
写真機という装置を見つめ、コンセプトという装置を定め、表現の可能性を模索する――クールな視線から生まれる、「在」と「非在」、「静」と「動」、「永遠」と「刹那」、「具象」と「抽象」がせめぎ合う、緊張とイメージの豊饒を感じてください。
「山崎博 計画と偶然」
~5月10日(水)
開催場所:東京都写真美術館
東京都目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内
開館時間:10時~18時(木・金曜日は20時まで) (入館は閉館30分前まで)
休館日:月曜日(ただし5/1は開館)
TEL:03-3280-0099
観覧料:一般600円ほか
http://topmuseum.jp