紙くずやゴミ箱も作品に!? 現代美術作家・山本桂輔が生み出す不思議な世界に迫ります。
植物やキノコなどの自然界のモチーフと、人間の想像力から生み出された妖精のようなモチーフが独自の鮮やかな色彩の中で一体となり、融合する……。2000年代の制作開始以来、そんな独特の不思議な世界を、彫刻と絵画のふたつの表現で展開し、見る者の心を惹きつけている山本桂輔さん。現在、注目を集めているアーティストです。その山本さんが最新作を制作中と聞いて、アトリエを訪ねてみました。
「生活と創作。それは別々のものではなくて、やわらかくグラデーションのようにつながっている。もっと言えば、レイヤーのように重なっているものだと思うんです」。11月23日(木)から台東区の旧平櫛田中邸で開催される展覧会『木のシンギュラリティ#2』に向けて、山本さんはいまの思いをこんな風に語ってくれました。
「今回の作品を展示する場所は、明治・大正・昭和期を生きた彫刻家、平櫛田中さんのアトリエ兼住居です。彼はそこに、50歳くらいから約50年間住んでいた。奥さんやお子さんたちとのプライベートな生活の場で、制作もしていたわけです。そのような生活と創作活動を併せもつ環境であるということが、いま僕が考えていることとリンクしました」
たとえば、作家が“完成品”と認めるものができ上がるまでには、失敗作もあっただろうし、制作においても生活においても、試行錯誤や葛藤、明かされていない秘密など、さまざまな事柄や思いの変化があったはず……。
「作品として完成した、目に見えるものだけを神格化するのではなく、完成まで至らなかったもの、生まれなかったもの、起きなかった出来事を表現してみたいと思いました。僕は以前から粘土で焼き物の作品をつくっていて、うまくいかないものがあると、ぐしゃっとつぶして丸めて、粘土入れのバケツに戻していました。それがある時、ちょっと待てよ、自分が神かなにかのような視点で、これは失敗だからと決めつけてしまっていいのか……と、捨てることに抵抗を感じるようになって。結局、それらも焼き上げることにしたのです。今回はそういう、“生まれなかったもうひとつの世界”について考えを巡らしています」
機械から押し出されたままで、まだナニモノにもなっていない粘土の塊や、小さく丸められた粘土。そして、ブラックホールのように口を開けたゴミ箱。焼き物や木彫で制作されたそれらのものが、生活と創造が重なる感覚を構成していきます。
「紙くずのような小さな塊を見て、え、これも作品? と思う人もいるかもしれない。でも僕は、どれかがメインの作品、ということではなく、すべてがつながっている感じを等価で見せたいんです」