まるでロードムービー。プライベートな「親密さ」に既視感を覚える写真家・...

まるでロードムービー。プライベートな「親密さ」に既視感を覚える写真家・笠井爾示氏の最新作品集『東京の恋人』

文:幕田けいた

©Chikashi Kasai

Pen本誌「クリエイターズファイル」でも活躍している写真家・笠井爾示氏の最新作品集『東京の恋人』が発売になりました。

95年に初の個展『Tokyo Dance』を開催してから、20年以上に渡り、東京、そして東京の女性を撮り続けてきた笠井。本書は11年以降に撮影した膨大な作品から約380点をセレクト。有名、無名を問わず、約60名の「東京の女性」が活写されています。

まるでロードムービーを切り取ったような作品に落とし込まれたのは、カッコいい最先端の都市・東京や、ハスに構えた人物像ではなく、親しい人に見せるようなプライベートな日常。セクシャリティを露わにするヌードだけでなく、合間に挿入された風景写真やスナップ写真まで、自分で体験してきたような生々しい現実感が宿っています。ページをめくるたびにストーリーめいた設定や、自分の思い出までが思い浮かんでしまうのは、笠井作品の特異なところではないでしょうか。

95年に初の個展『Tokyo Dance』を開催し、写真家ナン・ゴールディンに見出された笠井。ニューヨークのニューウェーブシーンをモチーフにしていたゴールディンは94年に来日し、東京のアンダーグラウンドの若者たちを撮影した写真集『TOKYO LOVE』を、荒木経惟とともに発表していますが、この時、笠井もモデルの一人として登場しています。ゴールディンは、18歳で自死した姉の死から、強い影響を受けて活動を始めた写真家ですが、後のインタビューで「写真を撮る中で、私は彼女との間にあった親密さを探している」と答えています。

笠井が探し、表現しようとしているのも、ゴールディンと同じ「親密さ」なのでしょうか。『東京の恋人』のタイトルも、そうしたコンセプトから生まれたものなのかも。また笠井ファンにとっては、デビュー作品集となった『Tokyo Dance』と同じ人物、同じモチーフが散見されるのも楽しい所だと思います。

CDジャケットなどの音楽分野やグラビア写真集、ファッション分野で活躍を続ける笠井の、原点を再確認する『東京の恋人』。寝苦しい夜、既視感を感じながら、ブ厚いページをめくって自分なりの「親密さ」を探すのは、秘密めいた大人の愉しみかもしれません。

©Chikashi Kasai

©Chikashi Kasai

©Chikashi Kasai

©Chikashi Kasai

『東京の恋人』

著者:笠井爾示

発行:玄光社

B5横 384ページ

定価:本体3,996円

まるでロードムービー。プライベートな「親密さ」に既視感を覚える写真家・...