なぞ多き戦国の画僧「雪村」に見る、“奇想”の源流と細部へのまなざし。
戦国時代、文化の中心地・京都ではなく、東国各地を遍歴しながら生きた画僧がいました。その名は、雪村周継(せっそんしゅうけい)。武家に生まれながら早くに出家、絵師として生地の茨城や福島、神奈川などを遍歴したその生涯は、生没年を含め謎に包まれています。しかし、遺された作品は、高い技術力とともに独特の奇抜さを持ち、いまなおその革新性に驚かされます。室町期の画僧・雪舟を継ぐ者として、自ら「雪村」と称したといわれる彼は、人気の若冲や蕭白、国芳ら “奇想の系譜”の絵師たちの先駆けとも位置づけられています。その15年ぶりの過去最大規模の回顧展が、東京藝術大学大学美術館で開催中です。雪村の作品は海外でも人気が高く、戦後かなりの数が流出しました。今回、日本の重要文化財作品はもちろん、メトロポリタン美術館、ミネアポリス美術館からも里帰りを果たし、主要な作品で彼の画業を堪能できる、豪華なラインナップです。会場は彼の滞在地を基本に時系列に綴られ、生地での修業時代から、多くの作品に触れ、画風を大きく拡げた鎌倉時代、そして彼を「奇想」と印象づける独自の大胆な作品が生まれる奥州時代、衰えない筆力の晩年までをたどります。最終章では後継者として、弟子の雪洞や雪閑、栄信ら江戸狩野の絵師たち、狩野芳崖や橋本雅邦の明治に至るまでを紹介、その影響の強さを感じます。また、琳派の立役者、尾形光琳の雪村への私淑ぶりを表す作品たちが並ぶテーマ展示では、一見対照的に思える光琳の視点から、彼を魅了したおおらかさや洒脱さを示し、より多角的に見せています。さらに、禅画って難しい…という印象も払拭する、見どころや画題のエピソードの分かりやすい解説も嬉しい配慮です。
仙人の奇妙なポーズ、山水の特徴的な描法、動物たちの精緻ながらどこか飄々とした愛らしさには、同時に波、風、空気が、みごとに表されます。しかしすべてに通じているのは、細部への視線。大きな屏風も小さな山水画も、仙人たちの豊かな表情や豆粒ほどでもしっかり描かれる風景の中の人々が…。そこには自然の移り変わりと人間の営みへの限りない愛情が感じられます。画僧・雪村の魅力は、その先駆的な表現のみならず、小さなもの、見えないものへ注がれる、その万物への愛着に由来するのかもしれません。「奇想」の源流とともに、ぜひこの細部への温かいまなざしを楽しんでください。
特別展「雪村―奇想の誕生―」
開催期間:~5月21日(日) ※会期中展示替えがあります
開催場所:東京藝術大学大学美術館
東京都台東区上野公園12-8
開館時間:10時~17時(入館は閉館の30分前まで)
休館日:月曜(ただし5/1は開館)
TEL:03-5777-8600(ハローダイヤル)
入館料:一般¥1600
http://www.geidai.ac.jp/museum/exhibit/2016/sesson/sesson_ja.htm