「絵巻マニア列伝」で、いにしえの愛好家の情熱とともに絵巻の醍醐味を満喫しよう。
詞書と絵が合体した「絵巻」。そもそもは中国から伝来したものですが、日本で独自の流行と発展をみた芸術様式です。遺されている名品の数々も、いまでは残念ながらガラス越しに広げられたシーンだけしか楽しむことができませんが、かつては手に取り、右から左へ、少しずつ巻き取りながら読んでいました。さながらそれは、現在の漫画やアニメーションの世界。高僧のエピソードや寺の縁起を、政変や事件、軍記を、あるいは妖怪や鬼退治の活劇を、そして季節を追った年中行事の華やぎを、庶民のちょっと下世話な滑稽を、臨場感あふれる画とともに物語ります。当時一流の画師や書家により、豪華な金彩や絵具、詞書に彩られた絵巻は、手にできる階層が限定されているとはいえ、さぞかし人々を魅了したことでしょう。
それらに殊に魅せられて、集め、庇護し、作り、取り寄せたいにしえの愛好家たちに着目し、彼らの絵巻愛からさまざまなジャンルの絵巻の名品を味わう展覧会が、六本木・サントリー美術館で開催中です。その名も『絵巻マニア列伝』。“列伝”に名を連ねるのは、蓮華王院宝蔵にさまざまな宝物とともに絵巻も充実させて、その後の愛好家が憧れるコレクションをなした後白河院を皮切りに、鎌倉期に絵所預・高階隆兼を擁し、平安に次ぐ絵巻黄金期を築いた花園院、室町期に古今の絵巻を鑑賞するだけに飽き足らず、自ら写し、新たに制作もした後崇光院と後花園院父子の皇室びと。そして武家文化の台頭期からは、詞書を清書し、物語の草稿を執筆した文化人・三条西実隆、文武合体で政権安定を図り、宮廷文化の摂取と保護を進めた足利将軍家。さらに江戸時代からは、各地に残る文化財の調査や記録、保存に注力した幕府老中・松平定信。彼らの関与をしめす、これまた絵巻に劣らず貴重な鑑賞記録や由来が記された文献に合わせてたどる絵巻の世界は、まさに“マニア”熱満開です。
鮮やかな彩色、活き活きとした人々や動物、精緻な自然や建物、美しい詞書は、時に荘厳に時に華やかに、時に哀しく時に楽しく滑稽に、ストーリーと併せて時代の息吹を伝えます。いまでもわたしたちを物語の世界に引き込む絵巻たちを彼らの情熱とともに味わう空間は、作品そのものの魅力だけではない、共感できるワクワクや喜びに満ちています。やっぱり手には取れないけれど(笑)、国宝も重文も、これまでよりちょっと身近に感じられ、一味違う楽しみを得られるかも。※無断転載を禁じます
六本木開館10周年記念展 「絵巻マニア列伝」
~5月14日(日) ※作品保護のため会期中展示替えあり
開催場所:サントリー美術館
東京都港区赤坂9-7-4
開館時間:10時~18時(金・土および5/2~4は20時まで開館)
(入館は閉館30分前まで)
休館日:火曜(ただし5/2は開館)
TEL:03-3479-8600
入館料:¥1300
http://suntory.jp/SMA/