Creator’s file
無機質な写真表現が、 新しい気配を生み出す。
陰影が少なく、コントラストの強い水谷吉法の作品は、奥行き感をほとんど感じさせず、見るものにきわめて平面的な印象を与える。「グラフィカルだと言われることも多いですが、極端に情報を少なくしたい、というのが僕の思いです」
大学を卒業する頃までは、まったく写真には興味がなかったという水谷。しかし、アルバイトをしていた古本屋で手にした写真集が、その後の彼の人生を大きく変えた。「ロバート・フランクの『The Americans 』でした。写っているのは道端に佇むおじさんやタバコを口にくわえた若者など、普遍的なシチュエーションなのに圧倒的になにかが違う。写真はこのように、新しい視点やモノの見方を提示できるのでは、と思いました」
水谷の考える新しい視点は、前述した「情報量の少なさ」に通じる。「人の喜怒哀楽を感じさせるような、情緒的な写真は好きじゃありません。それによって写真の性格が決まってしまい、見る人にもはっきりとした好き嫌いが生まれてしまうような気がして。ある種突き放した無機質な表現にすることで、なにげない景色の中に新しい気配が生まれると思うんです」
写真は現実を捉える芸術だとも言われるが、佐野ぬいなどの抽象絵画を好む水谷にとって、写真はもっと本能的な存在であると言う。「トリミングされた世界は、現実とは違う段階にあるもの。自分も写真を始めてから気づいたのですが、肉眼では曖昧に見落としているものも、ファインダー越しに見ると、どことなくひっかかるところが生じ、新鮮に感じる」
幼少期よりゲームやアニメ、デジタルメディアに親しんできたことも、大きく影響しているはずだと語る。「僕の作品は不思議なくらい縦位置のものが多いんです。人間や建物など世の中に縦方向のものが多いこともあるのでしょうが、スマートフォンで情報を見ているのも理由のひとつかも」
イッセイ ミヤケの2016年春夏コレクションでは、作品がテキスタイルに展開されるなど、さらに注目を集める水谷。ほかにも多方面から引き合いはあるも、安易に受けることはせず、自身のクリエイションをしっかりと守り、表現者として地道に歩んでいきたいと考えている。
「写真は生活の一部。寝たり食べたりするのと同じこと。死ぬまで作家として活動していきたいです」
送電線の上にとまる鳥を、楽譜の上で旋律を奏でる音符のように捉えた新作写真集『HANON』より。©Yoshinori Mizutani, Kawau,2015, courtesy IMA gallery
IMA CONCEPT STORE内 IMAwallで展覧会を開催した。