Creator’s file
写真に「情感」を加え描く、
リアリティと幻想の狭間。
タカコノエルは1991年生まれのビジュアルアーティスト。作品制作時は自らモデルのスタイリングを行い、被写体のリアルな表情を引き出して写真に収める。出来上がったプリントにアクリル絵の具や生花、切り紙を用い「情感」というタッチを加える。
「頭の中に描いた、偶発的で幻想的なイメージを具現化する手段がたまたま写真だったんです。最近はペインティングやプロジェクターを使ったインスタレーションにも挑戦していますが、写真という手段にとらわれず、いつも新しい表現方法に挑戦したいんです」
先頃開かれた写真展『Hole of Nowhere』でも、その世界観を垣間見ることができた。「夢の穴の中に落ちたら…… 」、そんなコンセプトで見せた夢と現実の狭間の世界には、花火に花、抜けるような空、そして脆さや弾けんばかりのエネルギーに満ちたモデルたちの眼差しが交錯する。
留学していたロンドン・カレッジ・オブ・ファッションで雑誌編集コースを選択、写真やスタイリング、インデザインを学んだことが、現在の活動の原点だ。1冊の雑誌を丸ごとディレクションすることに興味をもち、学生時代にはすでに自分の写真集を製作。栄えある1冊目は、プリンターで出力した50部限定のジン。フリーで活動するようになってからは、フィルムカメラを用いるようになった。ライアン・マッギンレーの初期の作品に影響を受けたこともあるが、「その場でチェックできないところ、上がりを前にしてドキドキするところ」が気に入っている。
「被写体を人形のようなものにしたくない」という彼女には、幸運な偶然を生み出すアナログがはまったようだ。「デジタルカメラを使うとついついモニターをチェックしたくなるんです。集中力が削がれる上に、撮り直したくなるんですね。でも、それでは彼らの体温や息遣いのようなリアルなタッチが消えてしまいそうで」
写真集『Riding Nowhere』内の作品もそうして撮影されたものだ。夜の暗闇の中、あるいは朝日が差し込む幻想的な森の中、コンパクトなカメラを使いモデルとふたりきりで濃密な時間を過ごす。いつしかカメラの存在を忘れる被写体は一切の構えを取り払う。その表情や仕草は自然で伸びやかだ。
昨年リリースした写真集『Riding Nowhere』から。モデルの動きと朝の光、もやが生み出した、映画のワンシーンのような作品。
被写体がもつエネルギーやパワーを表現したくて、プリントの上にアクリル絵の具を重ね、花びらを散らしてスキャンした。