Creator’s file
あらゆる人生経験を昇華し、
「映像」をポップな存在に。
彼の無軌道にも思える多様なバックグラウンドはしかし、すべて映像作家としてのアイデンティティであり、その審美眼にフィードバックされている。ディストピア然としたダークネスに覆われたポスト・ダブステップ以降のモダンなミニマリズムの快楽を、当然のように世界水準を満たしたクオリティをもって提示する音楽ユニットyahyel(ヤイエル)。山田健人はヤイエルでライブのVJやMV制作を担当するメンバーであり、フリーランスの若き映像作家としても熱い視線が注がれている。海外に向けてフラットな状態でアプローチするために匿名性を重んじるヤイエルにとって、サウンドと濃密に溶け合い、鮮烈なイメージをリスナーの脳内に刻みつける山田の映像は、MVのみならずライブでも重要な役割を果たしている。
「1曲に対して200個くらいの素材があって。それをライブのテンションや状況に応じて手元のパッドで使い分けているんです。つまり、VJの映像をパターン化していない。僕は音楽的にVJをやりたいと思っていて。ヤイエルのサウンドは無機質だけど、歌の内容は超人間的。それを映像でも意識しています」
中学生の時に独学でプログラミングを習得し、ゲームアプリを開発。高校時代は電子工作でアンプの自作に没頭するかたわらアメリカンフットボールに身を投じ、2012年にはU -19の日本代表チームに選抜された。アメフト引退後は独学でモーショングラフィックの制作を始め、大学に通いながら映像作家のキャリアをスタートさせた。
「決定的な影響を受けた作家や作品はないんです。でも、自分のあらゆる人生経験が作家性に影響していると思うんです。それは僕の現実主義的なところであり現象学的な発想で。テクノロジーは今後無限に進化すると思うけど、だからこそ重要になるのは表現者の人間性だと思うんですよね。僕は、どの瞬間を切り取っても映画っぽい画になるように心がけていて。あと、あんまりハッピーな映像はつくれないですね。無意識にダークなニュアンスを出したくなるし、そういう意味でも太陽の自然光は強敵です(笑)」
当面の目標は映画監督。そして、映像の地位を向上させたいと考える。
「映像をもっとポップなカルチャーにしたいんです。そのためにも、作品も僕自身も、もっと世の中に出ていきたいですね」
ヤイエルの最新MV「Alone」。映画的な緊張感に富んだ映像美を堪能できる、山田のディレクションならではの仕上がりになっている。
ヤイエルのファーストアルバム『Flesh and Blood』(ビート・レコーズ)。海外とオンタイムで共振するコスモポリタンな音楽像を提示する。