Creator’s file
振付から宣伝まで、
ダンス全部をデザイン
〝バンビ〞の愛称で呼ばれる、自身のダンスカンパニー「The Bambiest」(ザ・バンビエスト)の演出、振付のみならず、空間構成、映像、衣装、宣伝まで、すべてのアートディレクションを手がける菅沼伊万里。コンテンポラリーダンスのストイックさやキレ味と、ミュージカルや歌舞伎の煌めきや粋をもち合わせた作品世界を、美術館や商業空間など多彩な舞台環境を軽やかに使いこなしながら展開する。
「学生の頃〝ダンスをデザインする〞ことの面白さを知って、踊るよりつくるほうが楽しくなってしまったんです」という彼女は、4歳からモダンダンスを始め、中高のダンス大会で創作の楽しさを知った。総合プロデュースができる演出家を目指し、日本の大学を卒業後、ロンドンの美大で映像制作とグラフィックを学んだ。
「ギャラリーやファッションショーは入場無料だけど、舞台はチケットを買って来てもらう。それなのにチラシなどの宣伝媒体がダサくて作品の内容が想像できないものが多いのが気になっていました。当時からピナ・バウシュやローザスなど欧米のカンパニーは映像やポスターもかっこよかった。それに、ロンドンの留学時代に出会った学生は芸術に対する考察のレベルが高く、観る人も鋭い解釈で質問してくるので鍛えられるんです」
在学中、同級生や友だちを集めて立ち上げたダンスプロジェクトがTheBambiestだ。一方で、偶然パフォーマンスを目にした関係者から声がかかり、帰国後、なぜか宝塚歌劇団の振付を担当することとなる。
「タカラヅカにお洒落な風を吹かせてみませんか?という台詞で口説かれ、呼ばれてる感じがして(笑)。あまりに業界が違いすぎて、一瞬驚きましたが、結果的に視野が広がり、たくさんのことを学びました。想像とは違い、そこには本物のエンタメが存在し、スピーディなクリエイションが構築された、歴史ある世界だったんです。積み重ねたエンタメはアートになるとその時感じました」
デビューから一貫して、アートや音楽、ファッションとの関わり方にフォーカスし、舞踊文化と馴染みのない観客を巻き込む活動を続ける。あらゆる角度から舞台について強いビジョンをもつ彼女ならではの「キラキラして、攻めている」ダンスの登場は、表現の世界を息がしやすい場所に変えてくれるはずだ。
4/3~4にパリで上演するThe Bambiest 『Floating Words』(エスパス・ベルタン・ポワレ公演)。 写真は昨年の東京公演から。photo:Keitaro Onuma
今年15周年を迎える、静岡県のヴァンジ彫刻庭園美術館で、記念公演『樹々の隙間』を開催した。photo:Sai/saiphotograph