同性カップルの “家族”について考える。

Creator’s file

アイデアの扉
笠井爾示(MILD)・写真
photograph by Chikashi Kasai
青野尚子・文
text by Naoko Aono

同性カップルの “家族”について考える。

長谷川 愛 Ai Hasegawa
アーティスト
国際情報科学芸術アカデミー(IAMAS)、ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)などでメディアアートやデザインを学ぶ。2014年からMITメディアラボ研究員。『(不)可能な子供』(写真下)で第19回文化庁メディア芸術祭アート部門優秀賞受賞。3/26~7/10、森美術館『六本木クロッシング2016展:僕の身体(からだ)、あなたの声』に出展。

もし同性カップルの2人の遺伝子を引き継ぐ子どもが生まれたら? いまの科学技術では不可能と思われるシミュレーションに挑戦したアーティストがいる。
長谷川愛の作品は同性カップルの〝家族〞がモチーフだ。

「ロンドンに住んでいた時、同性カップルが普通に暮らしているのによく出会いました。そういった友人と適齢期の女性として生殖問題を語っても、彼らは2人の間にできる子どもを一切、想像しない。でも思ったより科学技術の発達は早く、彼らの子どもが産まれるのも遠くないかもしれません。また、シングルの女性にも意外な選択肢ができる未来が訪れるかもしれないと気づいた」 

実際にiPS細胞を使えば同性カップルの子どもも2年以内に実現する、と考える科学者も。一方で倫理や経済の観点もあるから事態は複雑だ。いちばんの問題はそういう生に関わる重要な事柄が、一部の人々によって決められてしまうことだと長谷川は言う。
「たとえば、独身女性の卵子の冷凍保存はイギリスで認められてから日本で認められるまでに数年の遅れがある。この数年の間に生まれていた命もあるかもしれない。これは高齢出産が見込まれる女性にも関わること。こういった技術を開発、研究する科学者はすべてを知っているのだから彼らに委ねればいい、という考え方は危険です。科学者自身にも思い込みがあるからです。かといって、一般の人々に任せるのは衆愚に陥る危険もあるでしょう」

解決策を見出すにはひたすら議論するしかないのでは、と長谷川は言う。
「先端技術で同性カップルが子どもをつくることは、自然の摂理に反するとして否定する声もあります。一方で人間が発明した技術を使うことは進化の一部だ、と捉える見方もある」 
アメリカを拠点にする彼女は、日本はこういった問題について考えようともしない保守的な国だと感じている。

「同性カップルには子どもが存在してはいけないと言うのなら、なぜそう思うのか、考えてみてほしい。この命が生まれるかどうか、あなたにも責任があることなんです。アートならほかの方法論ではリーチできないところにスムーズに入っていけるのではないか。そう思って制作をしています」 
反対意見の多くは、無知や誤解から生まれる。意外性のあるアートが思い込みで固まった脳をやさしくほぐし、マッサージしてくれる。

works

『私はイルカを産みたい…』(2011~13年)。過剰な人口を増やすのではなく、イルカなど絶滅危惧種を代理出産するアイデア。© Ai Hasegawa

『(不)可能な子供、01:朝子とモリガの場合』(2015年)。実在の同性カップルの遺伝子データで“家族”をシミュレーションした。© Ai Hasegawa

※Pen本誌より転載
同性カップルの “家族”について考える。