超写実絵画の静かな美、ホキ美術館の作品群をBunkamuraで堪能する。

超写実絵画の静かな美、ホキ美術館の作品群をBunkamuraで堪能する。

文:はろるど

生島浩『5:55』2007~10年 油彩・キャンバス 17世紀のオランダ絵画を思わせるアンティークな室内に、女性が座っている。視線を少しそらし、両手の指をよじらせながら、はにかむような表情を見せる姿に心を奪われる。

世界でも稀な写実絵画を専門とする美術館として、2010年に千葉市緑区に開館したホキ美術館。現代の写実絵画を約480点コレクションして一般に公開し、近年の「写実ブーム」を牽引してきた。開館10周年にして初の東京での開催となる所蔵作品展が、Bunkamura ザ・ミュージアムにて行われている。

光の透き通るガラスや瑞々しい果物、髪の毛1本1本までの質感など、まるで写真と見間違うほどの細密な表現に目を見張る。だが、ただ細かく丁寧に描けば写実絵画は完成するわけではない。ありのままを捉えながらも人間や物の本質までに迫ろうとする表現には、画家がキャンバスへ真摯に向き合った時間が蓄積されているのだ。細部に目を凝らせば、意外とラフに描かれている箇所があるなど描き方には強弱があり、一言に「写実」として括れないほど多様な作風があることに気付く。近寄って筆触に見入りながら、少し離れると緻密な情景がピントが合うように浮き上がるのも面白い。リアルでありつつも、絵画全体に画家の美意識が滲み出ているようにも感じられる。

2019年10月、ホキ美術館は豪雨によって収蔵庫が浸水し、コレクションの2割に当たる100点が損傷するなど大きな被害に見舞われた。その後、被災作品の修復作業が行われ、20年8月にリニューアルオープンすることが決まったが、依然として長期にわたっての臨時休館を余儀なくされている。そして本展覧会も新型コロナウイルス感染拡大防止のため4月6日で中止となり、6月11日に特別展として再開催された。

ホキ美術館の創設者である保木将夫は、開館に際し「癒しの美術館にしたい」と語っている。コロナ禍のいま、まさに人々に求められているのが、こうした静かな感動を呼ぶ写実絵画ではないだろうか。会場に並んだ約30名による70点余りの絵画を鑑賞していくと、久しぶりに絵画を鑑賞する喜びに満たされるとともに、モチーフのすべての質感を絵具で写し取ろうとする画家のストイックな挑戦に胸が熱くなる。

野田弘志『聖なるもの THE-Ⅳ』2013年 油彩・パネル・キャンバス 北海道の洞爺湖畔の森に建つアトリエの庭で、画家が見つけた鳥の巣。中のふたつの卵は5つに増え、やがて孵化したが、ある日突然、雛も巣も消えていたという。

石黒賢一郎『存在の在処(ありか)』2001~10年 油彩・パネル・綿布 モデルは画家の父親。高校の教師を退職する際に描かれた。腕を組んで物静かに立つ姿からは、ひとりの男の人生の重みが滲み出しているように見える。黒板のチョークの字も油彩で描かれていることに驚く。

青木敏郎『レモンのコンフィチュール、芍薬、染付と白地の焼物』2013年 油彩・キャンバス 自らが収集してきた陶磁器やガラス器、古書や布を極めて精緻に描いている。画家は以前、マウリッツハイス美術館でフェルメールの『デルフトの眺望』を模写し、館長から残して欲しいと嘱望される経験をもつなど、ヨーロッパの古典絵画を思わせる作品で高く評価されてきた。

千葉市最大の公園「昭和の森」に隣接し、緑豊かなロケーションも魅力なホキ美術館。地上1階、地下2階に広がる9つの回遊型のギャラリーには、常時約150点の写実絵画が展示されている。先端の30mが浮いた宇宙船のような建物も見どころだ。2011年の日本建築大賞を受賞。

特別展『超写実絵画の襲来 ホキ美術館所蔵』

開催期間:2020年6月11日(木)~6月29日(月)
開催場所:Bunkamura ザ・ミュージアム
東京都渋谷区道玄坂2-24-1
TEL:03-5777-8600(ハローダイヤル)
開館時間:10時~18時 ※入館は閉館の30分前まで
休館日:会期中無休
入場料:一般¥1,600(税込)
※ロッカー使用不可。展示室内の滞留人数に応じて、入場制限や整理券配布を行う場合あり
※マスク着用を義務づけ、連絡先の記入や入館前の検温、手指消毒液を設置するなど新型コロナ感染拡大防止のための対策を実施
www.bunkamura.co.jp/museum

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