『メルセデス・ベンツ アート・スコープ2015-2017』は、東京とベ...

『メルセデス・ベンツ アート・スコープ2015-2017』は、東京とベルリン、ふたつの都市を「漂泊する想像力」が競演するコンセプチュアル空間です。

文:坂本 裕子

ベルリンの地図の上に現地で見た落書きを描いたアクリル板が浮かびます。この落書きが実際の空に見えたら・・・空には地図が表す区分はありません。市内各地で空を見上げる人々がマッピングされ、映し出されます。 泉太郎 「溶けたソルベの足跡」 2017年 ミクストメディア 展示風景から

メルセデス・ベンツ日本が1991年から続けている、日本とドイツの間で現代美術のアーティストの交換と交流を図る文化・芸術支援活動「アート・スコープ」。東京とベルリンでの「アーティスト・イン・レジデンス」の成果を、2003年からは原美術館をパートナーとして発信しています。このたび名称を「メルセデス・ベンツ アート・スコープ」と改め、過去の参加アーティストから1名を加えて、新進アーティストの作品とキャリアを重ねた作家の近作で、活動の厚みと変遷が感じられる展覧会が開催されています。

今回のテーマは「漂泊する想像力」。ベルリンに派遣された泉太郎と、東京に招聘されたメンヤ・ステヴェンソン、そして1993年の「アート・スコープ」に参加した佐藤時啓の3名が、新作を発表します。

1976年生まれの泉は、映像やインスタレーション、ドローイングを織り交ぜて、そこに映し出されるものと、意図して映しだすものから、奇妙な「現実」を生み出します。リアルとフィクションがあいまいになり、どこかもの哀しく、どこかコミカルで、同時に隠されていたものを見てしまったような、うしろめたい感覚ももたらします。提示されるのは「移動する身体」の空間と時間の認識。身体そのものと当たり前と思っていることへの再考をうながします。
1982年生まれのステヴェンソンの、映像、写真からドローイング、オブジェと多岐にわたる作品の特徴は「発見」と「収集」といえます。東京で拾い集めた日常的な情景や小さな断片を、自らのイメージやアイデアを通して紡ぎ上げます。その視線は異文化・日本の歴史や伝統にも注がれ、浮世絵版画をふまえた版画作品やライトボックスに昇華させました。美しいインスタレーションやキュートなオブジェなど、繊細でチャーミングな空間になっています。
佐藤は1957年生まれ。80-90年代のシリーズで作品にした「東京」をふたたび現代に撮影したものと併置します。長時間露光で撮られ、人の息づかいが消された都市の過去と現在は、それぞれに不思議な抽象性と幻想性を獲得しています。場所とアングルを同じくしながら、手法やフィルムを変えることで現れてくる差異が、視覚的な街の変貌だけではなく、自身の生が重ねた時をも含み、幾層にも重なる思索的な作品です。

寡黙な中に細やかなコンセプトが重なり合いメッセージを発するそれぞれの空間を楽しんで。
会期中の土日・祝日には品川駅から特別ラッピングのメルセデス・ベンツVクラスの無料シャトルバスも運行、こちらもおススメです!

「空の旅」をテーマに、旅客機の内部を模した舞台装置と、その中で過ごし行動した人々の大画面映像のインスタレーション。それらが観る者の記憶と重なるとき、身体と移動、その空間の在り方と「旅」が改めて意識されるのです。 泉太郎 「浮き尻(遅刻の夢を見る12人以上の徘徊マニア)」 2017年 ミクストメディア 展示風景から

ステヴェンソンは浮世絵版画の工房で彫師と摺師が長く使用してきた作業机の表面を襖サイズの紙上に版画にしました。それらは木目や傷痕の表情とともに、抽象画にも風景画にも見えます。手前は東京で撮った少女の襟の刺繍に想を得た遊び心あふれるオブジェ。 左:メンヤ・ステヴェンソン 「e / 絵 名人の机」 2015年 モノタイプ/12点組より 各191 x 97 cm / 右:展示会場風景

ステヴェンソンが2012-17年にドイツと日本で撮った写真が美術館のサンルームの窓を飾ります。庭の実景と作品が重なり、現実とイメージ、内と外との境界があいまいになります。外光で変化する静謐で美しい空間はこの場所ならでは! メンヤ・ステヴェンソン 「家の緑」 2017年 会場展示風景から

佐藤は90年代に撮影した各所を再訪、同じ場所から“いま”を写します。ともに1時間の露光で撮られた都市はどこか非現実的です。街の変化に加え、モノクロとカラー、作者自身の存在など、さまざまな差異に「場」と「身体」を含む「時」を表します。 佐藤時啓 「An hour exposure 1990/2017 Tokyo - Shibuya」 2017年 写真/2点組

今回出品のアーティストたち。左から2015年にシュトゥットガルトから東京へ招聘されたメンヤ・ステヴェンソン、2016年東京からベルリンへ派遣された泉太郎、1993年に「アート・スコープ」に参加、今回招待出品した佐藤時啓。

「メルセデス・ベンツ アート・スコープ 2015-2017 漂泊する想像力」

~8月27日(日)
開催場所:原美術館東京都品川区北品川 4-7-25
開館時間:11時〜17時(毎週水曜⽇は20時まで / 入館は閉館の30分前まで)
休館日:月曜(ただし7/17は開館)、7/18
TEL:03-3445-0651
⼊館料: 1,100円

http://www.haramuseum.or.jp

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