『澁澤龍彥 ドラコニアの地平』
世田谷文学館
間断ない「否定」と「逆説」に見る、 圧倒的な理性と情熱。
赤坂英人 美術評論家マルキ・ド・サドなどのフランス文学の翻訳や芸術評論、またエッセイや小説など実に多方面で活躍し、現在でも世代を超えて新しい読者を惹きつける博覧強記の作家、澁澤龍彥(1928〜87年)。彼の没後30年を機に『澁澤龍彥 ドラコニアの地平』展が東京の世田谷文学館で開催されている。
今回は、独自の表現活動を「澁澤スタイル」として、その背景と魅力に迫る。彼の評論スタイルの大きな転換点になったとされる作品で、本人も「六〇年代に刊行した十数冊の著書の中で、いちばん気に入っている」というエッセイ集『夢の宇宙誌―コスモグラフィア ファンタスティカ』や、晩年の代表作である小説『高丘親王航海記』など、300点を超える草稿・原稿・資料、愛蔵の美術品やオブジェ、蔵書などを展示している。
綿密な文献渉猟を経て書かれる澁澤の博識な評論に対しては、読む人それぞれ見方があるに違いない。もちろん、衒学的(げんがくてき)趣味が過ぎるという人もいるだろう。ただ僕には、いつも彼の作品に風通しのよい音楽を聴いている感覚がある。それは明快なロジックに裏打ちされたスコアと、演奏者の熱情的な演奏が交差する絶妙の音楽だ。
たとえば、澁澤31歳の時の初評論集『サド復活』。これはサドの思想を語りながら、フーリエ、マルクス、トロツキー、ブルトン、バタイユを紹介して、テロル、悪、美、ユートピアを考察した現代にも通じる記念碑的エッセイ集だ。第一章、「暗黒のユーモア あるいは文学的テロル」の冒頭にいう。「サドの書簡集を一読して先ずわれわれが心底ふかく打たれるものは、この幽囚の文人が最初の数箇月、絶望の危機を過ぎて後、次第に己れの運命について毅然たる確信を抱いてゆく過程である。」
そこにあるのは、歴史を見つめる澁澤の理性(ロゴス)と情熱(パトス)である。
『澁澤龍彥 ドラコニアの地平』
開催期間:~2017年12月17日(日)
世田谷文学館
TEL:03-5374-9111
開館時間:10時~18時
休館日:月
入館料:一般¥800
www.setabun.or.jp