イメージと物質の間で、油彩の可能性を探る。

Creator’s file

アイデアの扉
笠井爾示(MILD)・写真
photograph by Chikashi Kasai
青野尚子・文
text by Naoko Aono

イメージと物質の間で、油彩の可能性を探る。

高橋大輔 Daisuke Takahashi
ペインター
1980年、埼玉生まれ。2005年東京造形大学卒業。『NEW VISION SAITAMA5 迫り出す身体』(2016年、埼玉県立近代美術館)、『絵画のありか』(2014年、東京オペラシティアートギャラリー)などのグループ展に参加。今年4月、ギャラリー・ウラノで個展『眠る絵画』を開催。

これは絵ではなくオブジェでは?そう思えるほどの厚塗りでインパクトを与える高橋大輔の絵画。平面の世界だと思われている絵画の、奥行きや物理的な厚みを感じさせる作品で評価されてきた。その彼の作風が少しずつ変わりつつある。向こうが透けて見えるような薄塗りの絵画が現れているのだ。 
高橋が絵画に興味をもつようになったのは、中学生の時に見たムンクの『叫び』がきっかけだった。
「油絵という妙な道具で、空が真っ赤というおかしな世界を描いている。テーマも不安だったり恐れだったり決してポジティブではない。こんな妙なものが芸術として認められているんだ、とびっくりしたんです」 
だが、美大卒業後、生活と制作の両立などの壁にぶつかる。その頃、なにげなく大量の絵の具を厚く塗った絵を友人に褒められたことを機に、厚塗りを意識するようになった。厚塗りの絵は夜に描いていたので『夜の絵画』と命名。その後、結婚して子どもも生まれ、それまで夜型だった生活からしだいに昼に制作するようになった。昼に描く絵には、身の周りの世界をスケッチするようなものもある。それを彼は『昼の絵画』と表現している。「夜、蛍光灯の下で作品と向き合っていると作品を視線が通過してしまうような感覚に陥ったんです。ですが、昼に描くようになって、自分の内側から外側に関心が向いてきた」 
そんな体験を経て「薄塗りで透明な層をひとつずつ重ねてその奥にイメージが遠ざかっていく、手の届かない夢のような絵画をなぜか描きたくなった」のだという。4月に開いた個展のタイトル『眠る絵画』はこんなイメージから付けられた。ほぼ一貫して抽象画に取り組んでいることは変わらない。
「色彩自体の面白さを追求したい、身体を動かした痕跡を残したいという思いがありました」 
高橋は、絵にはふたつの側面があると考えている。
「奥行きがあると錯覚するイリュージョンとしての側面と、物質としてクールに捉えることができる側面です。僕はイメージと戯れるのと同時に、物質と戯れている。絵画を手なずけたいけれど、できない。そのうちにどんどん絵が変わっていく。そういう壁にぶつかって悩み続けている」 
悩みつつも広がりを見せる高橋の絵画は、物質とイメージの新しい関係性を探り続けているのだ。

works

『32-62 眠る絵画』(2016年)。筆だけではなく油彩画用のパレットナイフや手で描いたりすることもある。©Daisuke Takahashi, Courtesy of URANO. photo:Fuyumi Murata

『49 眠る絵画』(2016〜17年)。艶のある絵の具の層から下の層が透ける。©Daisuke Takahashi, Courtesy of URANO. photo:Fuyumi Murata

※Pen本誌より転載
イメージと物質の間で、油彩の可能性を探る。