もっと知りたいいい服、いいモノ
Pen3/15号 「いい服、いいモノ」 連動企画 本誌購入は こちらから
一流ファッションブランドがラブコールを送る手仕事の布織り工房「日本ホームスパン」を、ファッションライターの高橋一史さんが訪ねました。
Pen本誌でも紹介している日本ホームスパン。 Pen Onlineでは貴重な製作現場の動画も交えて 日本のモノづくりの真価に迫ります。
アトリエでデザイナーがデザイン画を描き、パタンナーが服の型紙を設計し、モデリストが布をトルソーに巻きつける。そんなファッションの舞台裏に足を運ぶのが、面白くて仕方ありません。「どうして?」との問いには、「モノが生まれる現場が楽しい」としか答えようがないのですけど。2016年3月1日発売のPenファッション特集号では、こうした舞台裏をたくさん取材してきました! なかでも印象的だったのが、我が国で指折りのハイセンスな布を織る工房「日本ホームスパン」の訪問。「いつか行きたい」と憧れていたこの工房の、本誌ではあまり触れなかった味わい深い現場の空気をお伝えします。
見るからに古いマシン! 1960~70年代の高度経済成長期に製造された日本製の織機です。このマシンの役割をご説明する前にまずは、「布とは何ぞや?」というお話を。
布は、タテ糸とヨコ糸が、まっすぐ縦横に絡み合っています。どの布も基本原理は同じです。旧式のマシンでの織りは、1.タテ糸をセット → 2.ヨコ糸の糸巻きをシャトルに入れる → 3.シャトルを横に動かしてタテ糸と交差させる → 4.布が織られる、というプロセス。で、「シャトルって??」という疑問が。
上の写真のプラスティック容器に入っているのが糸巻き(ボビン)で、右に置かれた木の舟みたいなのがシャトル。これが往復運動するから、マシンを「シャトル織機」と呼びます。「旧式力織機」という名称もあるのですけど。
なにはともあれ、以下の30秒動画でサクッとマシンの動きをご覧ください!
シャトルが人の手でセットされ、横に打ち出されます。マシンが縦運動も行い、通されたヨコ糸をギュッと一方向に押し込んで布が織られます。日本ホームスパンはデリケートな糸を何種類も使ってグラフィカルな布にするため、「1人1台体制」をキープ。頻繁にストップさせて再び動かす、の繰り返し。シャトルを使わず一日200mも織ってしまう近代の布づくりと比べると、どれほどアナログなのかって話です。ていねいな織りを行うからこそ、ファッションブランドにリスペクトされる布を生み出せるんですね。
通好みのメンズブランド「アンスナム」が、2014年春夏に初めてつくったデニム。ボコボコと盛り上がるムラのある風合いがスバラシイ。ブランドのデザイナー中野靖さんが解説してくれました。
「コットンを藍染めした手紡ぎ糸や、古い紡績機で紡ぎロープ染色した糸などを使用。織り上がったら生地の目を詰まらせ、浴槽に浸けて手仕事で糸にストレスをかけないよう整えます。その後、特殊加工の工場で、糊付けの代替としてタンパク質の液体を表面にコーティング。最後に自分のアトリエ内で生地をハンマーで叩き、表面を滑らかにして、ロープ染色した糸をつぶし、芯の白色を浮かび上がらせました」
ファッションデザイナーが、深い知識と経験に満ちた職業なのがおわかりでしょう。