もっと知りたいいい服、いいモノ
Pen3/15号 「いい服、いいモノ」 連動企画 本誌購入は こちらから
日本ホームスパンは古い技法を活用して、ニュアンスのある厚手の布を織る工房です。老舗ながら実験精神旺盛で、国内外の一流ブランドからオファーが絶えません。「ホームスパン」とは本来、手で紡いだ糸を手織りした布のこと。服地の「ツイード」はホームスパンの一種であり、ムラ感のある羊毛で織られるためザックリした風合いの布になります。
工房内はホームスパンを生み出す設備が揃っており、なかでも目を奪われるのが手織り用の織機です。オブジェのような木製の佇まいにも心惹かれますが、それが道具として使われている現場のムードがまたイイんです!
前ページのモーター式織機の動きを極端に遅くしたような、同じ原理の布織りです。糸そのものが特殊な形状なのがおわかりですか? モーター駆動に掛けられる丈夫さはないけど味のある糸。それを人が目で確かめながら、空気を含ますようにゆっくりと織っていくのです。難点は、生産効率が悪すぎること。織れる技術のある職人も限られますし、布幅が狭いので服のパーツ裁断が難しく、デザインに制約が出ます。日本ホームスパンはラグジュアリーなファッションにふさわしい布を日々開発して、現代に生き残っています。
工房では1フロアの中に設備がランダムに並んでいます。一つのテーブルの上に、製作途中の小幅な布や糸巻きがポツンと置かれていました。「布づくりの見本ディスプレイなのかな?」と思って眺めていたら、しばらくして工場長がやってきて、おもむろに針に通したヨコ糸を手で縫い始めるじゃないですか! 「これぞ究極の手織りなのかっ」と驚いたしだいです。前述のファッションデザイナー中野さんにこの話をしたら、「もはや“織り”というより“刺繍”ですよね」と。日本ホームスパンの自社製品ストールになるらしいですが、一度首に巻いてみたいものです。
以上でレポートは終了です。優れたファッションアイテムにはすべて、その奥にたくさんのモノづくりストーリーが隠されています。「つくる」という目線で服を眺めて、一着一着を大切にする楽しさを感じていただけたら幸いです。(高橋一史)