くらしや社会を豊かにするのは、この“デザイン”です。 「グッドデザイン賞」に注目せよ!
構成、文:小川彩協力:公益財団法人日本デザイン振興会
デザインイベントが目白押しの秋、毎年恒例の「グッドデザイン賞」もクライマックスを迎えています。11月上旬に開催される受賞デザインの展示イベント「GOOD DESIGN EXHIBITION」は、その年のデザインを象徴する存在といえる大賞が発表され、デザイン界のみならず広く注目を集めます。今年の受賞作を知るとともに、グッドデザイン賞の歴史や選考方法など、基本をおさらいしましょう。
Pen編集部がマークした、15のグッドデザイン
2017年度のグッドデザイン賞受賞デザインの中から、Pen編集部の視点から注目したい15のデザインをピックアップしました。「使ってみたい」と思わせるテクノロジーと先進性、「手に取りたい」と感じさせる美しいフォルム、そしてデザインでより良い未来をつくろうとするフィロソフィを感じるもの……。このグッドデザインにぜひ、ご注目ください!
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Slim Airframe -
KIDS & JUNIOR2016年、小学生から高校生までの裸眼視力が「1.0未満」の割合が過去最多と発表されました(文部科学省学校保健統計調査)。視力矯正のためにもっとも身近なツールは眼鏡ですが、心理的なハードルが高いことも事実。そこで約7,000人の子どもたちを対象に嗜好性などリサーチを行うと同時に、頭幅や瞳孔間距離などを測りフォルム・サイズ・カラー展開を考え抜いたのが「Slim Airframe – Kids & JUNIOR」です。開発では子どもたちと対話を重ね、「眼鏡をかけたい!」と前向きな気持ちになるよう配慮。身体のちょっとした不都合に優しく寄り沿うデザインを感じる、ユニバーサルなプロダクトです。
事業主体:ジンズ プロデューサー:ジンズ代表取締役社長 田中仁 ディレクター/デザイナー:ジンズR&D室 金田大輔 発売:2017年4月20日 -
Dot Watch
韓国からエントリーした世界初のスマート“点字”ウォッチ。Dot社が開発したスマホアプリと連動する技術によって、白い文字盤の上に小さなドットが上下し、スピーディーかつ流れるような点字表示が可能になりました。聴覚・視覚障害者にとって、スマホの音声アプリなどで時間や日付、着信したメッセージ内容などを認識するシステムはありましたが、このDotWatchは周りを気にすることなく、情報を手軽に素早く指先でキャッチできるようになった点が素晴らしい。ネガティブな印象だった“点字”そのものを、テクノロジーとデザインによって美しく表現している点にも注目です。
事業主体:Dot incorporation プロデューサー:Dot ディレクター:YeongKyu Yoo デザイナー:JaeSeong Joo、KiHwan Joo、Nara Ok、Michelle JY Park、Yeong Kyu Yoo、Youngwoo Choi 発売:2017年12月 -
Venova
今年の審査会場で審査委員の気持ちが最も上がったのでは?と思わせるほど注目されたのがこの「Venova」です。リコーダーを演奏できれば誰もがサキソフォンのような音色を奏でることができるという夢のようなプロダクトの背景には、シンセサイザーなどに搭載された、同社の分岐菅理論を応用したテクノロジーがありました。多くの人が気軽に演奏を楽しむことができるために開発されたこのカジュアル管楽器。『もしもピアノが弾けたなら』というタイトルの歌謡曲がありましたが、楽器を演奏できることはひとつの言語を話すことと同じくらい魅力的なコミュニケーションスキルだ、と改めて感じさせてくれました。
事業主体:ヤマハ プロデューサー:ヤマハB&O事業推進部 中島洋 ディレクター:ヤマハデザイン研究所 川田学・勝又良宏 デザイナー:同研究所 辰巳恵三 発売:2017年5月 -
フィーノ
日本全国のどこかの飲食店で誰もが手にしているであろうスタッキンググラス。1974年にGマーク賞を、その後もロングデザイン賞を受賞するなど、いわばグッドデザイン賞の常連組とも言えるのが東洋佐々木ガラスの「スタックタンブラー」です。このグラスのスタック機能はそのままに、使い心地や上質感をリデザインしたのが「フィーノ」です。現代の「食べる・飲む」スタイルに寄り添うよう、強化ガラスを肉薄にして全体を軽く、なのにスタック時に破損しにくい丈夫さはキープ。ロングセラーのプロダクトを、丁寧なアプローチで現代の食卓にふさわしいデザインにアップデートした点に拍手を送りましょう。
事業主体:東洋佐々木ガラス プロデューサー:東洋佐々木ガラス代表取締役社長 戸田逸男 ディレクター:同社営業本部 富樫亜人 デザイナー:同 窪田美直子 発売:2017年2月1日 -
バルミューダ ザ・ゴハン
昨年家電業界で注目されたパン専用のトースター「BALMUDA The Toaster」に続き、「食べる」ことに関連する家電を、とバルミューダが発表したのが炊飯器「BALMUDA The Gohan」です。「土鍋のご飯の美味しさを電気の力で超える」という家電メーカーとして直球の視点から、蒸気炊飯方式を開発。二重にした釜の中空スペースに水を注いで熱蒸気を起こし、100℃を超えない自然な加熱でお米の表面を傷つけないよう炊くことに成功しました。美味しさを損なう保温機能を省いている点にも注目。台所に置いた風景の美しさだけでなく、お米を炊く、楽しむ意識もリデザインしてくれるプロダクトです。
事業主体:バルミューダ プロデューサー/ディレクター:バルミューダ代表取締役・クリエイティブ部 寺尾玄 デザイナー:同社クリエイティブ部 発売:2017年2月 -
Xperia Touch
スマートフォンの体験を、画面の中から空間へと投影し、一人ではなく大勢で情報をシェアしながら楽しむ。そんな新しいコミュニケーションツールがこの「Xperia™」です。テーブルや壁に投写したスクリーンに複数人が同時に直接タッチして操作が可能。かつ音声での情報検索やアプリの起動もできます。日常生活で最も身近になっている家電=スマホ。でも個人で楽しむツールなゆえに俯いた姿勢での操作となってしまいます。このXperia™は、家族や友人同士でインタラクティブに楽しめるツールであることが素晴らしく、また新しいコミュニケーションの風景を日本のメーカーが実現したことが素直に嬉しい。
事業主体:ソニーモバイルコミュニケーションズ プロデューサー:ソニーモバイルコミュニケーションズ ディレクター:ソニー・クリエイティブセンター 石井大輔 デザイナー:同社・クリエイティブセンター 植田有信、土屋圭史、松島正憲、Simon Henning Studio Nordic 発売:2017年6月 -
Pechat
ぬいぐるみなどに装着させるボタン型スピーカー「Pechat」。専用のスマホアプリで操作することで、家族が吹き込んだ声やあらかじめ登録されたセリフなどを、あたかもぬいぐるみがしゃべっているように聞かせる演出が可能な育児アイテムです。スマホアプリによる育児は、子どもたちがスマホ画面に向かう時間を増やしてしまうのに対して、このツールはぬいぐるみなどを通して親子間に新たなアクティビティを作り出す可能性があります。おもちゃが話す、というファンタジーの世界を体験する子どもの未知数のリアクションに、大人もドキドキする。そのように両者にとってのギフトとなるプロダクトではないでしょうか。
事業主体:博報堂 プロデューサー:博報堂・小野直紀、谷口晋平、林翔太、鈴木あい+博報堂アイ・スタジオ・佐々木学、ルブロン・アレクサンドル、山本恭裕 ディレクター:博報堂・堀紫、高橋良爾+博報堂アイ・スタジオ・河本徹和、松瀬弘樹、朝日田卓哉、公文悠人、望月重太朗、大里和史、剣持学人 デザイナー:博報堂・小野直紀、山本侑樹、杉山ユキ、関根友見子+博報堂アイ・スタジオ・佐野彩香、柳太漢 発売:2016年12月 -
シトロエンC3
シトロエンの最新コンパクトSUV「C3」は、自動車として初の「コネクテッドカム」をルームミラーに装備。GPSを搭載したフルHDカメラで、スマートフォンと専用アプリで接続してワンタッチの撮影・保存が可能。ドライブ中の一瞬を逃さず発信するツールは、車自体をメディアにするような楽しさがあります。万が一の時はドライブレコーダーとしても機能。またドアミラーや、ルーフとボディのカラーリングをカスタマイズする楽しさも。コンパクトながらしっかりととったラゲッジスペースや、旅行鞄をモチーフとしたドアストラップなど、随所に車で旅する楽しみを散りばめています。
事業主体:プジョー・シトロエン・ジャポン デザイナー:スタイル・シトロエン(オートモーティブ・デザイン・ネットワーク) 発売:2017年7月7日 -
Smart Parking Peasy
「Peasy(ピージー)」は、近くの空いている駐車場をスマホで検索し、利用、精算までを可能にするスマートパーキングサービス。東京都内では駐車場が不足している上に、従来の大掛かりなフラップ板型のコインパーキングは設置コストがかかるという問題があります。Peasyは平たいスマートセンサーを地面に固定するだけで導入可能な装置で、駐車場オーナーの負担を軽減するだけでなく、利用者にとっても簡単に駐車場の空き情報を検索・予約ができて、決済もクレジットカードで可能なため、時間と労力を軽減できるメリットが。都心ならではのモビリティ事情に配慮したBtoBtoCの優れたシステムです。
事業主体:NTTドコモ プロデューサー:39works ディレクター:NTTドコモ イノベーション統括部 企業連携担当 デザイナー:同社 島村奨、狩野宏和、高道慧、山本裕己、廣澤創、宋陽樹、栞野可奈子 発売:2017年7月 -
Micra(マイクラ)
経カテーテルペーシングシステム「Micra™」は、カテーテルを用いて心臓内に送り込む世界最小のペースメーカー。ペースメーカーは患者にとって、皮下に植え込む外科手術が必要なこと、皮下のポケットの傷跡や膨らみが残ること、そして心臓内部につなぐ細長いリードが感染症を引き起こす恐れがあることなどが負担ですが、メドトロニック社は2009年より「デバイスを小型化し、心臓に植え込む」という発想の下に製品を開発。優れたバッテリーの搭載と電子工学技術により重さ1.75g、容積1ccという小型軽量化とリードレス化に成功。見た目わからずに装着できるようになったことで、患者にとってのバリアフリーかつQOLを高めている点にも注目です。
事業主体:日本メドトロニック プロデューサー/ディレクター/デザイナー:メドトロニック 発売:2017年9月 -
PaperLab A-8000
「PaperLab A-8000」は、オフィスのゴミだった使用済みコピー用紙をリサイクルし、新しい紙をつくり出す、世界初の乾式オフィス製紙機。大量の水を使わない「ドライファイバーテクノロジー」を搭載しているため給排水設備が不要で、オフィスのバックヤードなどにも設置可能。使用済みの紙から文書情報を完全に抹消してから再生することも可能という点も画期的。紙の利活用と環境問題に深くコミットしてきたプリンターメーカーだからこそ発想できた「新しい紙のサイクル」は、今後環境負荷削減とコスト削減を課題とする企業や自治体にひとつのソリューションを提供できるでしょう。
事業主体:セイコーエプソン プロデューサー:セイコーエプソン ペーパーラボ事業推進プロジェクト ディレクター:セイコーエプソン技術開発本部 デザイナー:セイコーエプソン技術開発本部 発売:2016年12月 -
住箱
“旅をする建築。住むを自由にする箱”をコンセプトとしたトレーラーハウス「住箱」。建築家・隈研吾氏が設計したのはモビリティを兼ね備えた、木製パネルで構成されたシンプルな四角い箱の空間でした。二拠点居住はじめワークスタイル・ライフスタイルが多様になり、「小屋」に注目が集まる中、日本を代表するアウトドアギアメーカーであるスノーピークと隈氏は、大小のパネルを開閉可能にしたことで、内を外へと拡張させるよりアクティブな空間を実現させました。土地に縛られないミニマルな空間は、精神をデトックスする茶室に通じるものがあるかも? 用途だけでなく、生き方まであれこれと想像したくなるプロダクトです。
事業主体:スノーピーク プロデューサー:スノーピーク代表取締役社長 山井太 ディレクター:同社 小杉敬 デザイナー:隈研吾建築都市設計事務所・隈研吾 発売:2017年4月 -
「ちょうどこの高さ」
「ちょうどこの高さ」は、2011年3月11日の東日本大震災による自然災害で、岩手県大船渡市で観測された最大津波16.7mを、東京・銀座ソニービルの数寄屋橋交差点に面した一面に広告で示したビルボード。震災から6年が経ちメディアの報道も災害に対する意識も低下する中で、災害情報を発信する企業として、防災意識を啓発するために屋外広告を実施。「忘れてはいけない」という企業メッセージとともに、災害を体験した人もそうでない人も、同時にその場で見て体感してもらい、記憶に残る装置にもなったことが評価されました。情報伝達はデジタル全盛な中、リアルな媒体として表現したデザインの底力に拍手を。
事業主体:ヤフー プロデューサー:博報堂 岡田憲、山縣太希 ディレクター:博報堂ケトル 橋田和明+ヤフー 内田伸哉、和気洋子 デザイナー:博報堂 柿﨑裕生、井手康喬、内田翔子 掲出開始:2017年3月6日 -
SEND(センド)
「SEND」は、農林水産業に携わる生産者のモティベーションを立て直し、「生産者と購入者がお互いになくてはならない存在として繋がる仕組みを作ること」を最大の目標とした、BtoBの新しい流通プラットフォーム。少量多品種生産など、こだわりを持った生産者の収穫したての農産物を、アプリを通じてレストラン事業者が注文可能。自社の物流センターから自社の配送スタッフが届ける仕組み。ITとデータ解析技術を生かした需要予測に基づく生産・出荷依頼と同時に、シェフからニーズを配送スタッフが吸い上げて、生産者にフィードバックするなど、テクノロジーと人が共存し、補完し合うシステムを作り上げた点に注目してください。
事業主体:プラネット・テーブル プロデューサー:プラネット・テーブル 菊池紳 ディレクター: プラネット・テーブル 北川真理、近藤雄紀、長岡利佳 デザイナー:プラネット・テーブル 菊池紳、徳平幹子 利用開始:2015年8月 -
ブルーシードバッグ
「ブルーシートをブルーシード(復興のたね)に。」2016年の熊本・大分地震によって甚大な被害を受けた家屋の修復で用いられた使用済みブルーシート。ネガティブな風景の象徴を使って、復興のサポートに転換するポジティブなプロダクトとしてトートバッグをデザイン。被災地である大分の縫製工場で生産している点も評価されました。東北の被災経験者から聞いた、津波に流された漁師の大漁旗を用いたブレスレットの話をヒントに、「REMAKE(災害のゴミの利活用)」、「RETURN(売上の一部を被災地に還元)」、「REMIND(災害を忘れない)」をコンセプトとした。災害時にデザインができること、忘れないことを問いかけるグッドデザイン賞だから、光を当てられたプロダクトだと思います。
事業主体:一般社団法人BRIDGE KUMAMOTO プロデューサー:BLUE SEED PROJECT ディレクター:一般社団法人BRIDGE KUMAMOTO 佐藤かつあき、稲田悠樹 デザイナー:一般社団法人BRIDGE KUMAMOTO佐藤かつあき 発売:2016年11月4日