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HYT H2 トラディション
“液体”で時間を示す世界初のハイブリッド機械式腕時計が、あえてクラシカルな装いで新登場!
今年のSIHH(ジュネーブサロン)では、世界的知名度を誇る常連15ブランドに加えて、個性的な時計づくりを行ってきた独立系9ブランドが出展した特別なエリアが新設されました。その中でもとりわけユニークな時計として注目を集めていたのが、HYTの「H2トラディション」です。
この時計には時針がなく、かわりにダイヤル外周に沿って極細のガラスチューブを円形に配置。その中に封入されたブルーの液体が時間を表示します。より厳密に言えば、ブルーの液体と、その反対側の透明な液体との境界面が時間の経過とともに動いていくのです。この2種類の液体は水と油のように決して混じり合うことはなく、ブルーの液体が右下の6時位置まで達すると、瞬時に左下の6時まで戻って再び時間の表示をスタートします。いわば液体によるレトログラード表示といえるでしょう。
この仰天の時計を製作したのはHYT(ハイドロ・メカニカル・オロロジスト)。ファーストモデルの「H1」は2012年に発表されましたが、アイデアの段階から実用化までおよそ10年間の歳月を費やしたそうです。もちろん世界初の機構であり、数々のウオッチアワードで革新性を称賛する賞を獲得しています。翌年にはさらに進化させた「H2」が登場。このモデルにスイス時計らしいクラシカルな意匠を取り込んだ新作が「H2トラディション」という位置づけになります。
時計の歴史を遡れば、日時計が使われていた古代から水流を利用した時計も世界各地にありました。HYTでは水=液体表示と機械式のメカニズムを合体させた究極ともいえるハイブリッドで、数千年前からあった水時計を21世紀に蘇らせたといえるかもしれません。
このメカニズムのポイントは、前述したように極細のガラスチューブに決して混じることのない2種類の液体を封入したことと、時計下部にV字型に配置された2つの「ふいご」=ポンプにあります。テンプの往復振動が秒を刻む仕組みは一般的な機械式と同じですが、カタツムリ形のカムが回転して、左側のポンプのヘッドに接続したパーツを押すことでブルーの液体が動いていきます。ブルーの液体に押された透明な液体は、逆に右側のポンプ内部に収納されていくわけです。カムの回転が終点まで到達すると、それまで押していたパーツが瞬時に解除され、ポンプは元の大きさに戻って、ブルーの液体も6時位置に戻るという仕組みになっています。
液体は温度によって体積が変化しますが、それにも対応。温度に応じて液体の膨張や収縮を調整する仕組みも備えているので、通常の生活範囲であれば温度変化に影響を受けることはまったくないそうです。
この2つのポンプは通常の機械式時計にはない機構なので、そのスペースを作るためにテンプなどの調速脱進機を中央に配置。60分計を上部のオフセンターにして、これに重なるようにスモールセコンドを組み合わせており、機械式を強調したスケルトンの雰囲気も魅力です。分針・秒針ともにスイスの高級時計を継承するブルースチール。地板にはダイヤモンドギェーシェ(彫り)が施されているほか、アーチ型の大型リューズなど伝統的な遺伝子を持つことを感じさせます。アワーマーカーのローマ数字も風格を加えているといえるでしょう。
かつてなかった圧倒的な革新性にもかかわらず、時計に求められる感性的な要素も丁寧に満たしているモデルであり、手巻きで8日間のロングパワーリザーブという実用性も評価できます。
なお、HYTでは「H3」「H4」としてバリエーションを拡大しており、東京・恵比寿のウェスティンホテル1階にあるノーブルスタイリング・ギャラリーで見ることができます。
ムーブメントは超複雑時計を得意とするルノー・エ・パピの設立者の一人であるドミニク・ルノー氏と共同開発。香箱が2つあり(ツインバレル)、192時間(8日間)のスーパーロングパワーリザーブ。ケースバックはねじ込み式のサファイヤクリスタルで、防水機能は50m。
問い合わせ先:ノーブルスタイリング TEL03-6277-1604
今回のコメント
山口幸徳
ノーブルスタイリング マーケティングディレクター
1990年代前半から時計業界で活躍。IWC、ポルシェデザイン、アイクポッドなどのマーケティングやPRに携わる。2004年、ノーブルスタイリングに参加。HYTやドゥラクール、クリストフ・クラーレなど、スイスをはじめとしたヨーロッパの小規模ながらオリジナリティーの高いブランドを厳選して日本に紹介している。