専門家が指南する、腕時計と文具の最新トレンド

専門家が指南する、腕時計と文具の最新トレンド

写真:正重智生(BOIL)(文具) 文:篠田哲生(腕時計)、小池高弘(文具)

スイスで行われる時計イベントが軒並み中止になるなど、コロナ禍でトレンドが掴みにくかった2020年。腕時計と文具の各専門家が今年の傾向を解説する。

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<腕時計編> 解説者は腕時計ジャーナリストの篠田哲生さん。

1.復刻

過去の傑作モデルを復刻する手法は、もはやトレンドとは言えないが、近年は“復刻の質”が高まっている。実は多くのスイスブランドでは過去の金型や設計を廃棄してしまったため、当時の形状を完璧に再現するのが困難だった。そこで登場したのがデジタルスキャン技術。オリジナルモデルをスキャンしてデータ化することで、より当時の姿に近づけられるようになった。そしてその技術はムーブメントにも取り入れられるようになり、さらに精度の高い復刻モデルがつくられるようになった。

(左:ゼニス)1969年のエル・プリメロ初代機の再現「クロノマスター リバイバル エル・プリメロ A384」。コマを浮かせたラダーブレスも当時の復刻。自動巻き、SS、ケース径37mm、パワーリザーブ約50時間、5気圧防水。¥968,000(税込)/LVMHウォッチ・ジュエリー ジャパン ゼニス TEL:03-3575-5861 (右:オメガ)月面で時を刻んだ伝説のムーブメント「Cal.321」を最新のデジタルスキャン技術で解析し復刻させた「スピードマスター ムーンウォッチ 321」。手巻き、SS、ケース径39.7mm、パワーリザーブ約55時間、5気圧防水。¥1,661,000(税込)/オメガお客様センター TEL:03-5952-4400

2.グリーングラデーション

腕時計のアクセサリー化が進んだことで、見栄えのよいカラーダイヤルが増えているが、それはいまに始まったことではない。実は機械式の終焉とクオーツ式の勃興という腕時計の混迷期だった1970年代にも同様に、ダイヤルのカラー化が進んだことがあった。今年はグリーン×グラデ―ションのモデルが目立ったが、これはまさに70年代風のスタイルを取り入れたもの。昨今のファッショントレンドとも相性がよく、レトロな雰囲気を楽しめる。色の美しさだけでなく、歴史ごと味わうのが正解だ。

(左:オーデマ ピゲ)深緑のセラミックベゼル&ダイヤルが個性的な「ロイヤル オーク オフショア クロノグラフ」。自動巻き、ブラックセラミック、ケース径44mm、パワーリザーブ約50時間、テキスタイル加工ラバーストラップ、100m防水。¥4,015,000(税込)/オーデマ ピゲ ジャパン TEL:03-6830-0000 (右:ブランパン)海時計の定番「フィフティ ファゾムス バチスカーフ フライバック クロノグラフ」。グリーンになるだけで、グッと新鮮な印象に。自動巻き、セラミック、ケース径43.6mm、パワーリザーブ約50時間、セイルキャンバスストラップ、300m防水。¥1,859,000(税込)/ブランパン ブティック銀座 TEL:03-6254-7233

3.ハイテク

これまでのハイテクウォッチは、衛星電波時計やスマートフォン連動など、高精度&多機能のために技術を磨いてきた。しかし今年のハイテクウォッチは、腕時計そのものを楽しむ情緒的な要素のために、静電誘導発電(アキュトロン)やOLED=有機EL(ハミルトン)といった新技術を駆使している。奇しくも2本は、どちらも歴史的ハイテクウォッチを現代的に進化させたもので、技術革新をさらに意味あるものにしている。ウンチクを語りたくなる腕時計だ。

(左:ハミルトン)史上初のLEDデジタル腕時計の進化版となる「ハミルトンPSR」。二重液晶で時刻を常時表示させ、ボタンを押すとOLEDの数字が赤く点灯。デジタル、SS、ケースサイズ34.7×40.8mm、10気圧防水。¥99,000(税込)/ハミルトン/スウォッチ グループ ジャパン TEL:03-6254-7371 (右:アキュトロン)「アキュトロン スペースビュー2020」は、1960年に発売された音叉式時計の意匠を継承。腕の振りでタービンが回転。静電誘導発電を行って時計を動かす、世界初の仕組みを採用。クオーツ、SS、ケース径43.5mm、カーフ革ストラップ、5気圧防水。¥396,000(税込)/ブローバ相談室 TEL:0570-03-1390

4.チェンジャブルストラップ

腕時計を自己主張のアイテムと考えるなら、服を着替えるようにTPOに合わせて使い分けたい。複数の腕時計を所有するのも正しい選択だが、簡単にストラップやブレスレットを交換できる「インターチェンジャブル」システムを採用したモデルであれば、1本の腕時計を多彩に使い分けできる。以前はレザーストラップを交換するのが主流だったが、今年はメタルブレスも交換できるタイプが増えている。いかに交換の手間を簡略化し、バリエーションを増やせるか。各社しのぎを削る成長分野だ。

(フレデリック・コンスタント)自社開発の永久カレンダーを搭載した「ハイライフ パーペチュアルカレンダー マニュファクチュール」。自動巻き、SS、ケース径41mm、ムーンフェイズ、5気圧防水。¥1,188,000(税込)/フレデリック・コンスタント相談室 TEL:0570-03-1988

付け替え可能なラバーストラップが1本付属する。

(トム フォード)ストラップが時計本体とは別売りで、カーブしたケースの裏を引き通す方式の「N.001」。今年はクロームダイヤルと薄型のSSブレスも追加。クオーツ、SS、ケースサイズ44×30mm、3気圧防水。¥242,000、SSブレス¥103,400、アリゲーター革ストラップ¥82,500(すべて税込)/トム フォード タイムピース TEL:03-4360-5608

5.ラグジュアリースポーツ

次々と誕生する超高級SUV車が示すように、ラグジュアリーなモノを日常使いするのが昨今のスタイル。腕時計の場合は、力強いケースと美しいディテールをもった「ラグジュアリースポーツウォッチ」がそれにあたる。もともとは1970年代に始まったジャンルだが、高級時計市場に新興富裕層や若者が入ってきた結果、ここ数年で一気に拡大。これまでエレガントな腕時計しかつくらなかったブランドまで巻き込み、さらなる盛り上がりを見せている。新しい働き方が推進される中で、この傾向は強まるだろう。

(左:H.モーザー)初の自動巻きクロノグラフとSS製一体型ブレスからなる「ストリームライナー・フライバック クロノグラフ オートマティック」。センターに積算計をもつ対称デザイン。SS、ケース径42.3mm、パワーリザーブ約54時間、120m防水。世界限定100本。¥5,280,000(税込)/エグゼス TEL:03-6274-6120 (右:A.ランゲ&ゾーネ)ブランド初のSS製スポーツウォッチとして昨秋デビューした「オデュッセウス」。今年はホワイトゴールドケースで装いを新たに、同じく初のラバーストラップを装着。自動巻き、18KWG、ケース径40.5mm、パワーリザーブ約50時間、12気圧防水。¥4,807,000(税込)/A.ランゲ&ゾーネ TEL:03-4461-8080

解説者:篠田哲生/腕時計ジャーナリスト。1975年、千葉県生まれ。男性情報誌を経て独立。雑誌、新聞、ウェブなど、幅広い媒体で時計記事を担当。時計学校にも通った実践派。12月に『30過ぎたら男の時計選びは教養だ』(光文社)を上梓予定。

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