シームレスな形状が美しい、樽形の新アイコン
岩崎 寛(STASH)・写真photographs by Hiroshi Iwasaki
並木浩一・文
text by Koichi Namiki
フランク ミュラーの「ヴァンガード」に、初めてのブレスレットモデルが登場した。3度目のシーズンを迎えてますます際立った造形の冴えを見せつけている人気シリーズの、最新の話題作。ソリッドかつスタイリッシュなスチールのブレスレットは、間違いなく注目を集める。フランク ミュラーは非球面レンズのような3次元曲線をもつ「トノウカーベックス」で、腕時計デザインを非ユークリッド幾何学の高みにいざなったブランド。「ヴァンガード」は大胆で無敵の構想力が、30年を経て再び伝統のトノウ(樽形)を読み直した、新たなアイコンである。
「トノウ カーベックス」と同じ古典フォルムを原点としながら、「ヴァンガード」のデザイン志向は恐ろしいほど前衛的である。ファーストモデルの革ストラップ版でも賞賛されたのが、ラグを廃したケース。今回の新作でもブレスレットとシームレスに一体化し、オールポリッシュの表面が生み出す華やかな視覚効果で全体を統一する。本来は大ぶりで存在感のある腕時計ながら、まるでバングルのようなフィット感も、この構造の賜物だ。
文字盤の〝ビザン数字〞と呼ばれる独特の流麗なアラビック書体が、袋数字のアプライド・インデックスに仕立ててあるのも大きな特徴だ。丈の高いこのアワーマーカーと、縦方向に細かいブラッシュ仕上げが施されたブラックの地が、絶妙のコントラストを描く。時間を大海に見立てて人生のコンパスを寓意する、フリンジに刻まれた方位角も印象的なアクセントを添える。色使いを極力抑えながら、魅力は多彩である。
シンプルなトノウ形ウォッチの誕生からおよそ100年を経過して、「ヴァンガード」のフォルムが世に登場したことにも意味がある。天才時計師フランク・ミュラーは、腕時計のデザイン史に精通したエキスパートだ。そのブランドが問うたのは、21世紀の腕時計が得た、確かな新しいカタチなのである。
ヴァンガード™