オリジナルの意匠を活かした、名作時計の復刻。
岩崎 寛(STASH)・写真photographs by Hiroshi Iwasaki
並木浩一・文
text by Koichi Namiki
ロンジンが擁する航空時計の一群は、時計界が継承するレガシーである。リンドバーグやウィームス中佐ら空の英雄が考案・開発した腕時計を製作してきた歴史まで有する腕時計ブランドは、それを守る責任もあるだろう。「ヘリテージコレクション」の中に収められているヒストリカルなアヴィエーションウォッチは、どれも空のロマンをかき立てる逸品揃いだ。その中でも異彩を放つのが「ロンジン アヴィゲーションタイプA -71935」である。
文字盤が時計回りに40度傾いた、異形のセットアップ。これは1935年にアメリカ陸軍から発注を受けたオリジナルを誠実に復刻したものだ。手首の内側に装着したときに正立して見えることを想定した、飛行機乗りの必要に応じたデザインである。自動操縦装置など望むべくもない当時の米陸軍パイロットは、操縦桿から手を離せない。ステアリング型の操縦輪でも、左手をスロットルレバーに当てる戦闘機でも、「A –7」の傾げた文字盤は左手首をわずかに返すだけで正確に読み取ることができた。明度の高いポリッシュホワイトラッカーの地に、ハニーカラーの極太アラビア数字と、梨形の短針が特徴的なブルースチール製ペアスケルトン針。はっきりとしたコントラストは、粋である以上に視認のクオリティを確保する。
しかも、最小の所作で起動できる、モノプッシャーのクロノグラフ。高級クロノグラフの証しであるコラムホイールを装備するムーブメントは、ロンジンだけに独占供給するエクスクルーシブな名機である。飛行用グラブを嵌めたままでも操作できる大型のリューズ、クロノグラフ針の先端を的確に捕捉するトレイントラック(レイルウェイ)形のチャプターリングなど、切実で必要のためにデザインされた細部も忠実に再現されている。一見するとエキセントリックな魅力の腕時計は、実は身体性のレベルにおいても実用性十分なモデルだったのである。
ロンジン アヴィゲーション タイプ A-7 1935