あの名作スツールが、ファブリックを纏うと……
写真:永井泰史 文:小川 彩

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今年80周年を迎えたフィンランド・アルテック社。同社の定番、アアルトスツール60のシートにファブリックを張ると、これまでとは違うやわらかな表情が見えてきます。

エレノア・プリチャードを代表するパターン、「ROWRIDGE FACE」。シンプルなラインが連続するパターンは、モダンだけど和のしつらえとも相性が良さそう。インディゴとグレーの組み合わせの2タイプあります。各¥31,320

暮らしに必要なものがすでに揃っていても、心地よい手ざわりや背景に流れるストーリーに共感したアイテムが加われば、より豊かに暮らしを楽しむことができます。そういったプロダクトの魅力を紹介していくシリーズ「ONE MORE THING」の第1回は、英国のテキスタイルデザイナー、エレノア・プリチャードのファブリックをシートを張った、アアルトスツール60を取り上げます。


これは、アクタスのライフスタイルストア「スローハウス」が、二子玉川店の限定プロダクトとして発表したもの。サステナブルで長く愛されるもの、そしてマスターピースになっていく家具を届けることをコンセプトに掲げるスローハウスが、英国の伝統技術であるウールの織物を生かすエレノアの姿勢や、プロダクトのクオリティに共鳴し、今回のコラボレーションが実現したといいます。

家具用の張り地はスコットランド地方の小さな島の工房で生産しています。上質なメリノウールにナイロンを少量混紡した織り地は、しっかりと密なのにさらっとした肌触りです。

ウール100%のブランケットはウェールズ地方のドブクロス織機を使うツイード専門の工房で、丁寧に作られています。実は裏側のパターンもおもしろいのです! 「405LINE」 120×150cm ¥54,000

家具とファブリックのマッチングにトライしたかったというスローハウスが、エレノアのファブリックと合わせたのはアルテック社のアアルトスツール60です。独特のカラーリングとミッドセンチュリーを思わせるパターンが印象的なエレノアのファブリックと、普遍的なデザインのスツールの出合いは調和がとれていますし、何より気持ちのよい座り心地はスツールへの愛着を育ててくれそうです。

エレノアとスローハウスの担当バイヤーとで相談して決定したカラーは、インディゴをベースとしたもの。北欧家具のバーチ材の表情や日本の住空間との相性もよく、どこか懐かしささえ感じます。生産効率が悪くてもウールの風合いが生かせる古い織機を使い続けている工房に依頼し、ウールの風合いを大切にしたファブリックを実現させている点も、長く使い続けたくなる理由のひとつかもしれません。

ブランケット「NORTHERLY」は天気図の北風を示す記号がモチーフ。ダブルフェイスの織り地を良く見ると、グリーンをベースにイエローやブルーグリーンなど、エレノアらしい色使いを発見できます。

スローハウス二子玉川店店内。家具やファブリックの手触りや使い心地をゆっくりと確かめたくなる、心地よい時間が流れています。

ラジオやテレビの周波数や電波という目に見えないものからインスピレーションを受けてパターンに落とし込んだり、パターンに電波塔の名前を付けたりする意外性とウィットに富んだエレノアのセンスは、デザインの軽快さにも現れています。

ファブリックメーカーと家具のコラボレーションや、インテリアスローを家具にレイヤーさせる提案が当たり前になってきたいま、ファブリックの素材のクオリティ、パターン、色合い、そしてデザインの背景にあらためて注目して選んでみると、生活空間に新しい空気が流れるのを感じるはず。エレノアのファブリックを使ったスツールやブランケットは、まさにそんなメッセージが詰まったプロダクトと言えるでしょう。

あの名作スツールが、ファブリックを纏うと……