視覚障がい者をサポートするスマート白杖の「WeWALK」。センサーを使って障害物を検知してくれるだけでなく、目的地までのナビゲーションも行ってくれる。
アプリのみならず、専用デバイスも進化の歩みを止めてはいない。昨年発表され海外メディアを中心に大きな話題となったのが、自らも視覚障がい者であるトルコ在住のエンジニアが開発した高機能白杖「WeWALK」だ。
これまでの白杖は、点字ブロックや足元の障害物を確認するためだけのものだったが、WeWALKは「障害物は足元だけにあるわけではない」という認識のもと、搭載するセンサーが足元のみならず胸上の障害物を検知し、存在を振動で教えてくれる。
また、専用アプリをスマートフォンにインストールすることでWeWALKとスマホが連動。アプリが音声により目的地までの道のりをナビゲーションしてくれるという。アクティブな視覚障がい者にとって、これほど力強い見方はないだろう。
デンマークにある150年の歴史をもつ補聴器メーカーのGNはAppleと共同でMFi補聴器を開発。現在もiPhone対応補聴器の最高峰として多彩なラインアップと優れた機能を提供。本文で触れたGPS連動などもこの補聴器の機能だ。
ウェアラブルデバイスの進化も目覚ましい。まず顔周りから紹介すると、「MFI補聴器」をご存じだろうか。MFIとは「Made for iPhone」を略したもので、これは補聴器の音量・音質調整がBluetooth経由でiPhoneでもできるという機能を搭載する補聴器のことだ。
しかも、このMFI補聴器は従来では不可能であったスマホでの通話も、Bluetoothを活用した通信によって可能になっている。なおGPSを搭載し、ユーザーがいる場所を理解し、オフィスならば周囲の音が聞こえるモードに、また屋外ならば風切り音などをカットするモードに切り替える、ハイエンドなモデルも存在している。
OTON GLASSはメガネの先に捉えた文章(たとえば本やレストランのメニュー、案内板など)をメガネに内蔵されたカメラが画像認識し音声で読み上げて教えてくれるウェアラブル・デバイスだ。
そして眼鏡。かつて話題となったグーグルグラスのようなスマートフォンを眼鏡化したデバイスがある一方で、障がい者向けのメガネ型ウェアラブルデバイスの開発も進められている。なかでも日本人技術者が製作した「OTON GLASS」(オトン グラス)は、私も審査員を務めたダイソンアワードで優秀賞を獲得した、期待のプロダクトだ。
これは文字が歪んで見えるなど、読み書きに著しい困難が生じる学習障がいの一種、ディクレスシアをもつ人のために開発されたプロダクトだ。眼鏡のテンプルにカメラが搭載されており、読みたい文字の方に顔(眼鏡)を向けボタンを押すと対象の文字が撮影され、音声に変換して読み上げてくれる。
ディクレスシア患者の人たちがこれまで苦労していた駅の案内表示や飲食店のメニューも、音声ならば無理なく理解できる。ディクレスシアをはじめ、見た目にはわからない障がいに着目したデバイスを開発したことに敬意を評したい。
最近では自分の身体のサイズにあった義手を3Dプリンターでつくるのは珍しくないが、その先駆けとなったのが世界中でさまざまなデザイン賞を総なめにしたhandiii(exiii-design社)だった。
ウェアラブルデバイスの最後は筋電義手について話をしたい。筋電義手とは、筋肉が収縮する際に発する微弱な電流(筋電)を採取し、物を掴んだり離したりできる電動の義手のことだ。注目したいのが、これもダイソンアワードで国際コンペで準優勝を獲得した素晴らしい作品で、元ソニーと元パナソニックの日本人技術者3名のユニット(現在は法人化)、exiiiが製作した筋電義手「handiii」である。
何がすごいかというと、従来の筋電義手が100万円以上の価格であることに対して、ボディを3Dプリンターで製作し筋電測定にはスマートフォンを活用。さらに機構を工夫しモーター数を減らすことで、材料費を実に3万円程度に抑えたこと。
デザインも革新的だ。handiiのコンセプトは「気軽な選択肢」。手を模した従来の義手に対し、そのデザインはSF映画に出てきそうなサイバーなルックスで、しかもカラーバリエーションも提案する。その日に身に着ける時計やスニーカーを選ぶように、義手も気軽な選択肢になって欲しいという想いが込められている。
現在、handiiは「HACKberry」と名称を変えているが、なにより驚くのはこれを商品化していないことだ。というのも、exiii社がHACKberryの設計書をオープンソースとして公表。誰もがexiii社のサイトからダウンロードできるようにしているのだ。
単純に考えれば、3Dプリンタと電子機器の製造知識があれば、3万円程度の投資でHACKberryをつくることが出来るということ。5本の指の繊細な動作も可能な先進の筋電義手をオープンソース化した奉仕的精神、そして筋電義手の製造コストを劇的に軽減させた社会的な意義の大きさは、計り知れないものがある。
VIDEO パラリンピックが開かれるはずだった2020年に合わせて日本でもっとも有名な肢体不自由者で『五体不満足』という著書もある乙武洋匡さんに装具をつけて歩かせようというプロジェクト。Sony CSLに所属する義足エンジニアの遠藤謙氏らを中心に進められている。
義手のみならず義足も同様に発展している。自らも片足がない東大生、孫小軍さんが開発したつまづきの少ないパワー義足、BionicMも大きな投資を受ける東大発ベンチャーとして注目を集めているが、もうひとつ注目を集めているのがSony CSLが開発した「SHOEBILL」という義足だ。
「SHOEBILL」は、膝継手部にコンピューターとモーターを搭載。椅子からの立ち上がりや階段の上り動作など、従来の義足では困難だった動作を可能とした。なお、このSHOEBILLは、作家でありタレントの乙武洋匡が義足を装着した歩行に挑戦する「OTOTAKE PROJECT」というSony CSL(ソニーコンピュータサイエンス研究所)のプロジェクトで、乙武さんが装着する義足に採用されたもの。プロジェクトでは、乙武さんの身体状況に合わせたカスタマイズも行っているのだという。
こうした先進技術を持つ気鋭メーカーの技術力が、ICTと身体障がいをカバーする義手や義足などの装具との融合を実現。将来より人間に近い、いや人間以上の動作を可能とするインテリジェンスかつハイパフォーマンスな装具が誕生するかもしれない。
[お詫び:記事の公開当初、「SHOEBILL」の開発元や「OTOTAKE PROJECT」の研究主体が他社であるような誤解を与える記載がありましたが、いずれも実際にはSony CSL(ソニーコンピュータサイエンス研究所)によるプロジェクトです。ここにお詫びして訂正いたします]