常に最善を求めるトップランナーが生み出した、至高のフォーマルセダン【名...

常に最善を求めるトップランナーが生み出した、至高のフォーマルセダン【名車のセオリー Vol.9 メルセデス・ベンツ Sクラス】

文:鈴木真人 イラスト:コサカダイキ

7代目となるW223型のSクラスは、ボディ構造を徹底的に見直すことで、堅牢性を高めながら軽量化を実現。ドライブトレインは電動化に対応し、レベル3の自動運転を導入する計画だ。日本では2020年1月にオンラインで発表された。

時を経ても色褪せず圧倒的に支持され続けるモデルを紹介する、連載シリーズ「名車のセオリー ロングヒットには理由がある」。第9回で取り上げるのは、高級セダンの代名詞的存在となっているメルセデス・ベンツ Sクラス。ガソリン自動車の元祖を源流にもち、いまも世界のトップに君臨している。

2020年9月にメルセデス・ベンツ Sクラスのフルモデルチェンジが発表された。7代目となるW223型で、次世代のモビリティ環境への対応が注目を集めている。世界的にSUV人気が高まってセダンは主流の座から滑り落ちてしまったが、Sクラスはやはり特別な存在だ。VIPが後席に乗るフォーマルなクルマとしては、いまも他の追随を許さない。新しいSクラスには、ドライブトレインやサスペンション、先進安全機能などに最新の技術が詰め込まれている。従来通りガソリンエンジンとディーゼルエンジンが用意されるとともに、100kmのEV走行が可能なプラグインハイブリッドも追加されるようだ。インテリアは全面的に刷新。5枚のディスプレイで構成されるインストルメントパネルには、AR技術も用いられている。

パテント・モトールヴァーゲンは馬車を模した構造で、座席の後方にエンジンを配置した。出力は0.75馬力とされ、時速15kmで走ったと言われる。

メルセデス・ベンツは、その出自からして特別である。創業者のカール・ベンツこそが、ガソリン自動車の発明者なのだ。彼は1886年に984cc単気筒4ストロークエンジンを搭載した3輪自動車のパテント・モトールヴァーゲンを製作し、特許を取得した。社名のダイムラーは、ゴットリープ・ダイムラーに由来する。彼はカール・ベンツと同時期に内燃機関の研究を進め、1885年に2輪車のニーデルラートの走行を成功させた。ふたりはそれぞれに自動車会社を設立してライバル関係にあったが、第一次世界大戦後の不況による経営難から、1926年に合併してダイムラー・ベンツ社となった。ちなみにメルセデスというのは、ダイムラー社の有力顧客だったオーストリア人の実業家、エミール・イェリニックの長女の名前である。ダイムラーという固い名前より女性の名前を付けたほうがイメージはよくなる、と提案したのが受け入れられたのだ。

ドイツは第二次世界大戦で国土が荒廃し、復興には時間を要した。タイプ220が登場したのは1951年になってから。同じ年に、新規設計のタイプ300もデビューしている。

ダイムラー・ベンツは、グランプリレースで活躍することで名声を高めていく。1934年に登場した「シルバーアロー」ことW25は、圧倒的な速さと信頼性で連勝を重ね、国威発揚に貢献した。第二次世界大戦中は軍用車両や戦車などを生産するが、戦後は乗用車の開発に注力。51年にタイプ220(W187)を発売する。戦前型のW136がベースだったが、ノーズを伸ばして直列6気筒エンジンを搭載し、快適性と高速性能を高めていた。戦後の高級車路線の始まりで、このモデルがSクラスの源流とされている。55年になると「フィンテール」と呼ばれたW111が登場。改良を重ねて評価は確たるものになっていった。メルセデス・ベンツの企業理念とされているのが、「最善か、無か」というスローガンだ。最も優れたモノをつくるのでなければ意味がない、というストイックな姿勢である。

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