オフロード性能と高級感を両立させた、革新的なプレミアムSUV【名車のセオリー Vol.8 ランドローバー レンジローバー】
時を経ても色褪せず圧倒的に支持され続けるモデルを紹介する、連載シリーズ「名車のセオリー ロングヒットには理由がある」。第8回で取り上げるのは、イギリスを代表する高級SUVのレンジローバー。軍用車を原点とするタフなオフローダーがプレミアム性を纏い、唯一無二の存在となった。
正確に言えば、車名はランドローバー レンジローバーである。いささかややこしい。ランドローバー社が製造するレンジローバーというクルマなのだが、ローバーが2つ重なるのが厄介だ。もとをたどれば、ローバー社がつくったクルマがランドローバーという名のSUV。車名だったランドローバーが、いまでは社名になっているのだ。ローバー社はこの連載の第1回で扱ったミニを製造していたメーカーである。20世紀の初頭に誕生した名門だが、イギリスでは自動車会社再編が繰り返され、2005年をもって実質的に消滅。ランドローバー部門は2000年に分割されてフォードに売却され、現在ではインドのタタ傘下となっている。車名としてのランドローバーは、1948年に誕生した。第二次世界大戦でアメリカのジープが活躍したことを受け、タフで高性能なオフロードモデルをつくろうと考えたのだ。車名を直訳すれば「陸の放浪者」ということになる。余談だが、トヨタのランドクルーザーはランドローバーに対抗して「陸の巡洋艦」という意味を込めて命名されたという。
ランドローバーのシリーズ1モデルは、サルーンのローバー P3をベースにしている。角張ったボディは軽量なアルミ製で、悪路走破性を高めるために4輪駆動を採用。イギリス陸軍の特殊空挺部隊で軍用車として使われ、砂漠の作戦行動などで活躍する。戦場で証明された高い性能が知られるようになって民生用としても人気となり、イギリスを代表するオフロードカーの名声を得た。1970年には新たなモデルが誕生する。それがレンジローバーだ。高いオフロード性能を保ったまま、高級車の快適性を実現するというコンセプトを掲げていた。フルタイム4WD機構をもつマルチパーパスビークルである。オフロードカーはスパルタンなものと考えられていた時代で、常識を破る革新的なモデルと言える。デビュー時は3ドアだけだったが、後に5ドアモデルが追加されている。高い利便性と快適性をもちながら、悪路走破性はトップレベルだった。79年に行われた第1回パリ・ダカールラリーで優勝している。
1989年に第3のモデルとしてディスカバリーが登場。翌年にはランドローバーがディフェンダーと名乗るようになり、ランドローバーブランドに3種のモデルがラインアップされた。レンジローバーは誕生から四半世紀を経た95年に初のフルモデルチェンジを行う。洗練度を高めて魅力を増したが、劇的に変わったのはその7年後に登場した第3世代モデルだった。堅牢なラダーフレームに前後リジッドアクスルというオフロードカーの定石を捨て、モノコックボディに4輪独立懸架という乗用車的な構成を取り入れたのだ。古くからのユーザーからは批判的な声も上がったが、オンロードとオフロードの走破性と快適性を高いレベルで両立させたことは高く評価された。2002年にイギリス・スコットランドで行われた国際試乗会に参加した時、高速道路から雪の山道や川の中までをこなす“Go Anywhere”性能の高さに感心したことを覚えている。ちなみに、この試乗会のプレスディナーにはアン王女が来臨された。英国王室にとっても誇るべきクルマなのだ。