唯一無二の曲線美をもつ、キャンティレバーチェア
Vol.49
唯一無二の曲線美をもつ、キャンティレバーチェア
MRチェア

ミース・ファン・デル・ローエ

文:佐藤早苗 編集:山田泰巨

1920年代後半、スチールパイプ製のキャンティレバーチェアは新しい時代の到来を思わせるデザインの代表格でした。ミース・ファン・デル・ローエの「MRチェア」は、バウハウスで続々と生まれたそれらのチェアのなかでもさらに一歩進んだものと言えるでしょう。

シートにラタンを組み合わせたモデル。インダストリアルなスチールパイプに手仕事を感じさせるラタンが温かな印象です。大きくカーブしたフロント部分がスプリングの役割も果たします。サイズはW490×D690×H790×SH460mm。

1927年にドイツ工作連盟が主催した住宅展覧会「ヴァイセンホーフ・ジードルング」で発表され、注目を集めたこの椅子。アメリカのノルではミースの名前から頭文字をとって「MRチェア」、ドイツのトーネットでは「S533」として、現在も2社がそれぞれに販売をしています。

ミースはフロント部分を大きくカーブさせることで金属疲労による劣化を防ぎつつ、弾力性のある座り心地を生み出しました。さらに彼は、最初の発表から5年かけてアーム付きのものや素材違いなど、一連のコレクションを完成させます。スチールパイプを用いたキャンティレバー構造の椅子が、バウハウスのデザイナーから続々と発表された20世紀の椅子革命。この椅子が発表された1927年と前後して、26年にマルト・スタムが「S33」を、28年にマルセル・ブロイヤーが「チェスカチェア」を発表しています。優雅な曲線美をもつ「MRチェア」は、機能美の追求に加え、普遍的な美しさや快適さへの配慮を加えたという点で、一歩抜きん出た存在と言えるでしょう。

ミースはあまり多くの資料を残していないため真相は定かではないですが、どこか優しい表情をもっているのは、彼がアメリカに移住するまで公私ともにパートナーだったと言われる女性デザイナー、リリー・ライヒのアイデアを反映しているから、という説もあります。

背もたれの上部は持ち運び時にハンドルとなるよう計算されています。シリーズにはアーム付きのモデルも(サイズはW530×D825×H790×SH460mm)。

こちらはレザーを組み合わせたタイプ。レザークッションをベルトで固定する構造に、このすぐ後に発表されミースの最も有名な作品となる「バルセロナチェア」の片鱗を感じとれます。サイズはW650xD970xH830×SH440mm。

唯一無二の曲線美をもつ、キャンティレバーチェア