Vol.41 チェスカチェア
Vol.41
Vol.41 チェスカチェア
チェスカチェア

マルセル・ブロイヤー

文:佐藤早苗 編集:山田泰巨

「チェスカチェア」または「S32」として知られるこの椅子は、マルセル・ブロイヤーが1928年にデザインしたものです。スチールパイプによるキャンティレバー構造の椅子はバウハウスのデザインを象徴する紛れもない名作の一つですが、デザインを巡ってはやや複雑な事情も抱えています。

工業的なスチールパイプと手仕事の温もりを感じさせる籐張りの組み合わせは幅広いスタイルにマッチします。サイズはW460×D580×H800×SH460mm

バウハウスで学び、その後教官として後進を育て、戦後は米国で建築家として活躍をしたマルセル・ブロイヤー。彼は1925年に世界で初めてスチールパイプを使用したチェア「ワシリーチェア」を発表してデザイン界に衝撃を与えます。「チェスカチェア」は、その3年後に生まれました。片持ち構造と呼ばれるキャンティレバーの椅子のスタンダードとして、現在に至るまでこれほど普及した椅子は他にないでしょう。模造品やリプロダクト品の多さからも人気のほどが伺えます。

「チェスカチェア」の生まれた1920年代後半は、バウハウス周辺のデザイナーを中心にスチールパイプを使った椅子やキャンティレバー構造の椅子が続々と誕生した時代です。ブロイヤーは同じくバウハウスで教え、1926年に「S33」を発表したマルト・スタムとスチールパイプ製キャンティレバー構造の著作権を争って敗訴しています。それによってデザインの原型はマルト・スタムが考えたものとなっていますが、諸説あり真相はわかりません。

このスチールパイプを使った椅子の製造は曲げ木で知られる「トーネット」が担い、ブロイヤー、スタム、ミース・ファン・デル・ローエの椅子を生産しています。やがてブロイヤーは、自身のコレクションの権利をイタリアのガヴィーナ社に売却。それが米国の家具メーカー「ノル」に引き継がれます。そのため現在はノルとトーネットの両者から正規品が販売されているのです。時代を大きく変えた椅子は複雑な歩みとともに、いまなお輝き続ける名作として人々に愛されています。

ウッドフレームはブラックも選択可能。フレームが黒になるだけで、きりりと引き締まった表情に。

ノルではブロイヤーが娘から名をとった「チェスカチェア」を製品名としています。一方でトーネットでは「S32」、アーム付きタイプは「S64」と呼ばれます。脚部がそのままアームへと繋がる一筆書きのようなシンプルなフォルムには、一切無駄がありません。

Vol.41 チェスカチェア